ジャン＝ピエール・デュポール

ジャン＝ピエール・デュポール（Jean-Pierre Duport 1741年11月27日 - 1818年12月31日）は、18世紀から19世紀初頭にかけて活動したフランス出身のチェロ奏者です。舞踏の大家であった父のもとに生まれ、チェロの技術をフランス楽派の祖とされるマルタン・ベルトーに師事しました。

キャリアの形成と国外での活動

ベルトーの下で研鑽を積んだ後、デュポールは19歳の若さでパリの楽壇に登場しました。当時のパリにおける主要な公開演奏会であったコンセール・スピリチュエルでのデビューは、彼の音楽家としてのキャリアの出発点となりました。

1766年から1769年にかけては、コンティ公ルイ・フランソワ1世の宮廷に仕え、その後はイングランドとスペインでそれぞれ約2年間を過ごすなど、国際的な経験を積みました。

プロイセン宮廷での黄金期

彼のキャリアにおける最も重要な転換点は、1773年にプロイセン王フリードリヒ2世（大王）からベルリンの宮廷オーケストラ首席チェロ奏者の地位をオファーされ、これに応じたことでしょう。以降、ジャン＝ピエールはその生涯をベルリンで過ごすこととなります。

フリードリヒ大王の後継者である甥のフリードリヒ・ヴィルヘルム2世（後の国王）にチェロを指導する立場にもなり、1786年にその王位継承を機に、彼は宮廷全体の室内楽部門の監督を任されるという重要な地位に就きました。

1790年には、フランス革命の動乱を避けてベルリンに到着した弟のジャン＝ルイ・デュポールと再会します。二人の才覚と国王の庇護のもと、ベルリンは瞬く間にヨーロッパにおけるチェロ音楽の新たな中心地として注目を集めるようになります。しかし、この活気も長くは続かず、ナポレオン軍がプロイセンを打ち破り、イエナ・アウエルシュタットの戦いを経てベルリンが占領される1806年までとなりました。この時、弟はパリへと帰還しましたが、ジャン＝ピエールはベルリンに留まり、1818年にその地で息を引き取りました。

ベートーヴェン、モーツァルトとの交流

ジャン＝ピエール・デュポールとその弟ジャン＝ルイは、同時代の高名な音楽家たちとも交流がありました。

1796年2月、当時ウィーンを拠点としていたルートヴィヒ・ヴァン・ベートーヴェンは、約5ヶ月にわたる演奏旅行に出発し、プラハ、ドレスデン、ライプツィヒを経由してベルリンを訪れました。この旅にはリヒノフスキー侯爵が同行しており、侯爵はかつて1789年にヴォルフガング・アマデウス・モーツァルトを伴ってベルリンを訪問した経験がありました。

モーツァルトも国王への謁見を求めていましたが、実現しなかったと伝えられています。しかし、彼はこの訪問時にジャン＝ピエール・デュポール自身のチェロソナタに含まれるメヌエットの主題に基づいた『デュポールのメヌエットによる9つの変奏曲 ニ長調』（K. 573）を作曲し、ジャン＝ピエールの前で演奏しています。

ベルリンに到着したベートーヴェンは、デュポールが指揮するフリードリヒ・ヴィルヘルム2世の宮廷オーケストラの演奏水準の高さに深く感銘を受けました。彼はポツダムの宮殿滞在中、傑作となる作品5の2つのチェロソナタ（第1番 ヘ長調、第2番 ト短調）を作曲し、これをチェロ愛好家であった国王に献呈しました。これらのソナタの初演は宮廷で行われ、チェロパートをデュポール兄弟のどちらかが、ピアノパートをベートーヴェン自身が演奏したと考えられています。

ジャン＝ピエール・デュポールは、優れたチェロ奏者として、またプロイセン宮廷音楽の中心的人物として、18世紀後半から19世紀初頭にかけての音楽史にその足跡を残しました。弟ジャン＝ルイと共に、彼の時代のチェロ音楽の発展に大きく貢献した人物と言えるでしょう。

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