ジャービル・アル＝アフマド・アッ＝サバーハ

ジャービル3世：石油と近代化、そして湾岸戦争の影 - クウェートの変革期を生き抜いた首長

ジャービル・アル＝アフマド・アル＝ジャービル・アッ＝サバーハ（1926年6月29日-2006年1月15日）は、クウェートを近代化へと導き、湾岸戦争という激動の時代を生き抜いた第13代クウェート首長である。歴代首長に同名の人物が存在することから、ジャービル3世として知られている。

生い立ちと政治への道

1926年、第10代クウェート首長アフマドの三男として誕生したジャービル3世は、ムバーラキーヤ学校での教育を経て、家庭教師から英語、アラビア語、科学を学んだ。1949年、アフマディー知事に任命され、公職に就く。その後、1962年には第一副首相兼財務・産業大臣に就任、1965年には首相に就任した。12年に及ぶ首相在任期間中、クウェートは急増する石油収入を背景に、伝統的な部族社会から近代都市国家へと劇的な変貌を遂げる。1977年、サバーハ首長の後継としてクウェート首長に即位した。

首長時代の外交と内政

首長としてのジャービル3世は、豊富な石油資金を基盤とした経済外交戦略で周辺のアラブ諸国への影響力を拡大し、小国クウェートの安全保障を強化しようとした。1979年のイラン革命の勃発はクウェートにとって大きな脅威であり、シーア派の影響力拡大を警戒したジャービル3世は、イラン・イラク戦争においてイラクのサダム・フセイン政権を支援する立場をとった。国内的には、伸張する反対勢力に対抗するため、1986年には非常大権を発動して国民議会を解散させるなど、強硬な姿勢も見せた。1985年にはイスラム過激派によるテロ攻撃にも遭っている。

湾岸戦争と国外逃亡

イラン・イラク戦争終結後の1980年代後半、原油価格の下落や油田開発問題などを巡り、イラクとの関係が悪化。ついに1990年8月2日、イラク軍がクウェートに侵攻し、全土を占領。ジャービル3世は国外に逃亡を余儀なくされ、この際、ダスマン宮殿で弟ファハドが戦死した。国外逃亡中のジャービル3世は、アメリカやサウジアラビアなどからの支援を要請。アメリカ軍を中心とする多国籍軍の介入によって、1991年1月、湾岸戦争が勃発し、クウェートは解放された。しかし、国外逃亡という事態に国民からの批判も巻き起こった。

戦後復興と社会改革

湾岸戦争後、ジャービル3世はクウェートの復興に尽力したが、経済は長期低迷に陥る。議会との対立も繰り返され、1999年には宗教省のコーラン誤植問題をきっかけに議会を解散させたが、同時に女性参政権を認める首長令を発布した。この決定は国際的に高い評価を受けたものの、議会によって取り消される結果となった。

外交面では、アメリカとの関係を強化し、2003年のイラク戦争ではクウェートがアメリカ軍の主要拠点となった。サウジアラビアとの間では、ペルシャ湾奥大陸棚の海上国境画定合意を締結した。

2001年に脳出血で倒れ、闘病生活を送っていたジャービル3世は、2006年1月15日に逝去。サバーハ家のサアドが後継首長に指名された。ジャービル3世の治世は、クウェートの近代化と発展、そして湾岸戦争という激動の時代を象徴するものであり、その功績と課題は現代クウェートの礎となっている。

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