ジュゼッペ・トレッリ

イタリアの盛期バロック音楽を代表する作曲家であり、優れたヴァイオリニストでもあったジュゼッペ・トレッリは、1658年 4月22日にヴェローナで生を受け、1709年 2月8日にボローニャでその波乱に富んだ生涯を終えました。彼は、特に器楽音楽、とりわけ協奏曲というジャンルの発展において、歴史上非常に重要な位置を占めています。

彼の音楽家としてのキャリアは、主に当時の音楽都市ボローニャを中心に展開しました。若きトレッリは、この地で高名な作曲家であるジャコモ・アントニオ・ペルティに師事し、作曲技法や演奏技術の基礎を徹底的に学びました。その才能は早くから認められ、1684年 6月27日には、ボローニャのアカデミア・フィルアルモニカの会員に迎えられています。このアカデミーは当時のイタリア音楽界における主要な組織の一つであり、その会員となることは一流の音楽家としての証でした。

1685年から1695年までの約10年間、トレッリはボローニャのサン・ペトロニオ大聖堂で指揮者として奉職しました。この大聖堂はボローニャ楽派の中心地であり、多くの著名な音楽家が集まる場所でした。ここで彼は、自身が作曲した作品を演奏する機会を得るとともに、大規模な合奏団を指揮する経験を積み、作曲家としての腕を磨きました。

ボローニャでの成功後、トレッリは活動の場をイタリア国外にも広げます。1697年から1699年にかけては、ドイツのブランデンブルク＝アンスバッハ辺境伯ゲオルク・フリードリヒ2世の宮廷楽団で活躍しました。異文化の中で音楽を創造し、演奏した経験は、彼の音楽性に新たな視点をもたらしたことでしょう。1699年12月には、ドイツからボローニャへの帰途、ウィーンに立ち寄り、そこでオラトリオを上演するなど、国際的な活動も行いました。

トレッリの音楽は、明快な形式と生き生きとしたリズムが特徴です。彼は特に、ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタ、弦楽合奏のための協奏曲、そしてトランペットを用いた作品で名を馳せました。器楽協奏曲の発展における彼の最大の功績は、独奏楽器群（または独奏楽器）と合奏群が交互に演奏する形式である協奏曲、特に合奏協奏曲のスタイルを確立した初期の作曲家の一人であるという点です。彼の作品に多く見られるリトルネッロ形式、すなわち合奏群が提示する主題が曲中に繰り返し現れる構造は、後のヴィヴァルディをはじめとする作曲家たちに大きな影響を与え、バロック協奏曲の標準的な形式となっていきます。

トレッリの作品群の中でも、特に現代においてよく知られているのが、彼のトランペットを用いた作品です。当時、トランペットは君主の権力や軍事的威厳を象徴する楽器とされており、宗教音楽や宮廷音楽での限られた使用にとどまっていました。トレッリは、この楽器を器楽ソナタや協奏曲に積極的に取り入れ、その華やかで力強い音色を最大限に引き出すことに成功しました。彼のトランペット協奏曲やソナタは、バロック期のトランペット音楽の重要なレパートリーとして、現在でも頻繁に演奏されています。

彼の主要な作品には、作品番号（Opus）が付されたものが多数あります。

- Op. 1: 10の3声のソナタ（1686年、ボローニャ）
- Op. 2: 12の室内協奏曲（2つのヴァイオリンと通奏低音のため）（1686年、ボローニャ）
- Op. 3: 12のシンフォニア（2、3、4つの楽器のため）（1687年、ボローニャ）
- Op. 4: 12のソナタまたは室内コンチェルティーノ（ヴァイオリンとチェロのため）（1688年、ボローニャ） - ヴァイオリンと通奏低音のためのソナタとしても知られています。
- Op. 5: 6つの3声のシンフォニアと6つの4声の協奏曲（1692年、ボローニャ）
- Op. 6: 12の4声の協奏曲（1698年、アウクスブルク/アムステルダム）
- Op. 8: 12の合奏協奏曲（クリスマスのためのパストラーレを含む）（1709年、ボローニャ） - この作品集には、特に有名な《クリスマス協奏曲》作品8-6が収められています。作品8の1番から6番は2つのヴァイオリンを独奏楽器とし、7番から12番は1つのヴァイオリンを独奏楽器としています。

これらの番号付き作品の他にも、トランペットを含む様々な編成のためのシンフォニア、協奏曲、ソナタ、あるいはヴァイオリンと通奏低音のためのソナタなど、多くの作品番号なしの作品が知られています。彼の作品は当時の主要な音楽出版業者によって刊行され、ヨーロッパ各地に広まりました。

ジュゼッペ・トレッリは、約50年の生涯において、イタリアの器楽音楽、特に協奏曲の形式を確立し、発展させる上で決定的な役割を果たした人物です。彼の音楽は、後続のバロック音楽の巨匠たちに多大な影響を与え、今日においてもその輝きを失うことなく、多くの聴衆を魅了し続けています。

もう一度検索