ジュラシック・パーク (映画)

ジュラシック・パーク

1993年に公開されたアメリカ合衆国のSF映画『ジュラシック・パーク』は、マイケル・クライトンによる同名のベストセラー小説を原作とし、映画界の巨匠スティーヴン・スピルバーグが監督を務めた作品です。キャスリーン・ケネディとジェラルド・R・モーレンが製作、脚本は原作者のクライトン自身とデヴィッド・コープが手掛けました。この映画は、単なるエンターテイメント作品に留まらず、当時の映画製作技術に革命をもたらし、興行面でも歴史的な記録を樹立しました。

アメリカでは1993年6月11日に封切られると、瞬く間に世界中で大ヒットを記録。最終的に全世界での興行収入は9億1,200万ドルを超え、その年の最高興行収入となっただけでなく、公開当時の歴代最高興行収入記録をも塗り替えるという快挙を成し遂げました。さらに、公開20周年を迎えた2013年には3D版として再上映され、その際にチケット売上高が累計で10億ドルを突破。これは映画史上17番目の10億ドル超え作品であり、その中でも最も古い年代の映画として記録されています。本作は、特にその革新的な視覚効果や没入感あふれるサウンドデザインといった技術的な功績が広く認められ、アカデミー賞3部門を含む、実に20以上もの映画賞を受賞しました。

製作の舞台裏

スピルバーグは当初、クライトンの別の小説『5人のカルテ』の監督を検討していましたが、クライトンに他の企画の有無を尋ねた際に提示されたのが『ジュラシック・パーク』でした。スピルバーグはこの物語に強く惹かれ、一方のクライトンもスピルバーグが監督することを条件に映画化権の譲渡を承諾します。しかし、この魅力的な原作を巡っては、各映画会社の間で激しい獲得競争が繰り広げられました。結果的に『5人のカルテ』は、スピルバーグとクライトンが製作総指揮を務めた人気テレビシリーズ『ER緊急救命室』として結実することになります。

革命的な映像技術

本作の最大の挑戦の一つは、絶滅したはずの恐竜をいかにして観客の目の前にリアルに蘇らせるかでした。この難題を解決するため、当時の最先端技術が集結します。ストップモーション・アニメーションの権威であるフィル・ティペット、特殊メイク界のトップアーティストであるスタン・ウィンストン、そしてILM（インダストリアル・ライト&マジック）のデニス・ミューレンらが招聘されました。ILMとスタン・ウィンストンは、同時期に製作されていた『ターミネーター2』と並行して、『ジュラシック・パーク』の準備を進めていたといいます。また、本作は劇場用デジタル音響システム「dtsデジタルサウンド」を世界で初めて採用した配給作品としても、その名を歴史に刻んでいます。

コンピュータグラフィックス（CG）の変革

初期の構想では、遠景の恐竜シーンは主にフィル・ティペットによるゴー・モーション（実写とアニメーションの合成）で制作し、CGはガリミムスの大群といった限定的な場面での使用に留める予定でした。しかし、ILMの一部の熱意あるメンバーが秘密裏に開発していたフルCGによるティラノサウルス・レックスのテスト映像を目の当たりにしたスピルバーグは、その圧倒的な迫力とリアリティに衝撃を受け、全面的にCGを活用する方針へと大きく舵を切ります。CG制作への情熱は並々ならぬもので、実写シーンの一部を削ってまでCG制作に予算を振り分けたほどでした。

この方針転換は、ストップモーションの専門家であるティペットにとっては衝撃的な出来事であり、彼は失意のうちに「私たちはこれで絶滅だ（We're extinct.）」と漏らしたと伝えられています。しかし、この言葉は皮肉にも、劇中でアラン・グラント博士のセリフとして引用されることになります。ティペット自身は、その後もテストフィルムの制作や、恐竜の動作をデジタル入力するツールの開発、動物園での動物観察に基づくアドバイスなどを通じて、CGスタッフの表現を強力にサポートしました。彼の貢献は、本作がアカデミー視覚効果賞を受賞する上で不可欠なものでした。

実写部分の撮影を終えたスピルバーグは、すぐに次作『シンドラーのリスト』の撮影のためにポーランドへ向かったため、ポストプロダクションの総指揮は盟友であるジョージ・ルーカスに託されました。ルーカスが自身の制作拠点であるスカイウォーカー・ランチに実在する池が、劇中ではパラサウロロフスが集まる水場として映し出されています。興味深いことに、ルーカスは本作で実現されたCGのクオリティを見て、それまで技術的な限界を理由に延期していた『スター・ウォーズ』新三部作の製作を決意したと言われています。

本作におけるCG使用シーンの合計時間はわずか7分程度ですが、そのインパクトは絶大でした。CGは恐竜だけでなく、ティラノサウルスに踏み潰されるツアーカーや蹴散らされる倒木といった背景オブジェクトの再現にも用いられています。また、高度な技術によって、ラプトルに破られた天井からぶら下がるレックスの一瞬のアップシーンで、スタント代役の顔をアリアナ・リチャーズの顔に入れ替えるといった処理も可能にしました。特に、ジェナロ弁護士がティラノサウルスに捕食されるシーンでは、その瞬間から役者がCGモデルに置き換えられており、これは映画史においてデジタル・スタントマンが初めて本格的に活用された記念碑的な例とされています。

アニマトロニクスの迫真性

一方、本作の多くの恐竜シーンでは、CGと並んで精巧なアニマトロニクス（ロボット技術を用いた模型）が活用されました。特にスピルバーグがこだわったのが、原寸大のティラノサウルス・レックスのアニマトロニクスです。この巨大な模型はスタン・ウィンストンのチームが担当し、航空シミュレーター会社の協力を得て開発された油圧駆動システムにより、高さ約6メートル、重量約6トンという文字通り恐竜級のサイズと迫力を実現しました。しかし、その圧倒的なパワーと重量ゆえに、動作時の反作用でスタジオの床を破壊してしまう問題が発生。そのため、深さ1.8メートルの強固なコンクリート床を持つ水中撮影用ステージにボルトで固定し、その周囲にセットを組んで撮影するという、主役級の特別な扱いを受けることになりました。さらに苦労話として、雨中のシーンでは、表皮に使われたフォームラバーが水を吸って重量が増し、油圧システムが頻繁に故障。スタッフは連夜、修理と乾燥作業に追われたといいます。

幾多の技術的困難を乗り越えて完成したアニマトロニクスは、俳優と恐竜が直接絡むシーンにおいて絶大なリアリティ効果を発揮しました。この実写とロボット、そしてCGを融合させるという試みは、その後のSF映画におけるクリーチャー表現に革命的な進歩をもたらし、本作の続編2作においてもアニマトロニクスは重要な役割を担っています。

その後の展開

公開20周年にあたる2013年には、デジタル変換された3D版として世界各地で再上映されました（日本での劇場公開は見送られました）。この3D再上映により、本作は改めて多くの観客を魅了し、累計興行収入10億ドル突破という記録を達成しました。

『ジュラシック・パーク』は、その革新的な技術とスリリングな物語によって、公開から数十年を経た今もなお、多くの人々に愛される傑作です。日本国内では、2024年3月末をもって映画館での上映権が消滅したというニュースも報じられました。

この映画は、エンターテイメント史における重要なマイルストーンであり、技術の進化が映画表現の可能性をいかに広げるかを示した金字塔として、今後も語り継がれていくでしょう。

もう一度検索