ジョセフ・ノルケンズ

ジョセフ・ノルケンズ（Joseph Nollekens、1737年 - 1823年）は、18世紀後半のイギリス彫刻界において、最も重要な地位を占めた人物の一人です。フランドル（現在のベルギー北部）出身の画家を父に持ち、イギリスの首都ロンドンに生を受けた彼は、同時代の多くの有力者の肖像彫刻を手がけ、その名を後世に残しました。

彼の父、ヨセフ・フランシス・ノルケンズ（Josef Frans Nollekens）は、ベルギーのアントウェルペン出身で、1733年にロンドンに移り住み、画家として活動していました。しかし、ジョセフはわずか11歳で父と死別します。父の死後、彼はロンドンで同じくアントウェルペン出身の彫刻家、ピーター・シューメーカーズ（Peter Scheemakers）に師事し、彫刻の基礎を学びました。

青年期にあたる1760年、あるいは1762年には、さらなる研鑽を積むためイタリアのローマへと渡ります。ローマでは約8年間滞在し、彫刻技術の向上に努めました。また、当時の芸術家たちが収入を得るための一般的な手段であった、骨董品の売買や修復、古代彫刻の複製品制作なども手がけていたと考えられています。

ローマ滞在中に彼が制作した大理石彫刻『ティモクレスとアレクサンドロス（Timocles Before Alexander）』は、イギリスの芸術家協会から賞を与えられ、彫刻家としての彼の評価を高めるきっかけとなりました。また、当時ローマを訪れていた著名なイギリスの文化人、例えば風刺作家で牧師でもあったローレンス・スターンや、イギリス演劇史に名を残す名優デイヴィッド・ギャリックなどの胸像を手がけており、その卓越した技術は既に広く知られていたようです。

1770年にイギリスへ帰国してからは、肖像としての胸像制作を中心に活動を展開しました。彼の肖像彫刻は、モデルの個性を見事に捉えつつ、しばしば古代ローマのトーガのような古典的な衣装をまとった姿で表現されるという特徴を持っています。このスタイルは当時の社会で高く評価され、彼の人気を不動のものとしました。また、ロンドン中心部のシティ・オブ・ウェストミンスターなどに彼の制作した記念碑（モニュメント）が今も残されています。神話を主題とした作品も手がけましたが、やはり彼の代表作として知られるのは肖像彫刻です。

彫刻家としての成功は、公的な栄誉にも繋がりました。1772年には、イギリスで最も権威ある美術団体であるロイヤル・アカデミー・オブ・アーツの正会員に推挙されました。また、判事と商人を兼ねる有力者の娘と結婚し、その社会的な地位も確固たるものとしたことがうかがえます。

彼のキャリアにおいて特に重要だったのは、国王ジョージ3世からの庇護を受けるようになったことです。国王自身の彫像を手がけたのをはじめ、当時のイギリス政界を牽引した数々の重要人物たちの像を制作しています。彼が彫像のモデルとした人物には、首相を務めた小ピットことウィリアム・ピットや、外務大臣を務めたチャールズ・ジェームズ・フォックスなどが挙げられます。また、第5代ベッドフォード公爵や第2代ロッキンガム侯爵といった、当時の社会で大きな影響力を持っていた貴族たちも、彼の彫刻の対象となりました。さらに、著名な画家ベンジャミン・ウエストのような同時代の芸術家たちの胸像も手がけており、その交友範囲の広さと彫刻家としての評価の高さがうかがえます。

ジョセフ・ノルケンズは、このように多くの著名人の肖像を手がけることで、18世紀後半のイギリス社会における主要な彫刻家としての地位を確立しました。経済的にも成功を収め、豊かな晩年を送り、1823年に故郷ロンドンでその生涯を閉じたのです。彼の作品は、当時のイギリス社会の指導者たちの姿を今に伝える貴重な芸術作品として、現在も多くの人々に鑑賞されています。

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