ジョセフ・ワイゼンバウム

ジョセフ・ワイゼンバウム - 人工知能の先駆者

ジョセフ・ワイゼンバウム（Joseph Weizenbaum, 1923年1月8日 - 2008年3月5日）は、米国の計算機科学の著名な教授であり、人工知能の分野で多大な影響を与えました。彼の名前は特に自然言語処理とそれに伴う倫理的な議論で知られています。

生い立ちとキャリアの初期

ワイゼンバウムは、ドイツのベルリンに生まれました。1936年、ナチスの圧政から逃れるために家族と共にアメリカへ移住し、そこで数学を学び始めます。しかし、第二次世界大戦によって学業は一時中断され、彼は軍に従事することとなります。戦後、ワイゼンバウムは数学の修士号を取得しました。

1952年頃、彼はアナログコンピュータに関する研究に従事し、その後、ウェイン州立大学でデジタルコンピュータの開発に携わります。1956年にはゼネラル・エレクトリック社に入社し、銀行用コンピュータ「ERMA」の開発に寄与しました。これにより、磁気インク文字認識技術を用いて小切手処理が自動化されました。その後、1964年にマサチューセッツ工科大学（MIT）で教授としてのキャリアをスタートさせました。

画期的なプログラムELIZA

1960年代にワイゼンバウムは、新しいプログラミング言語SLIPを開発しました。その後、彼の名を一躍有名にしたのが、1966年に発表された自然言語処理プログラム「ELIZA」です。ELIZAは心理療法士の役割を模し、カウンセラーのように人間と対話することができるプログラムであり、その基本的なスクリプトはカール・ロジャースの来談者中心療法に基づいています。

このプログラムは、パターンマッチングを使用し、ユーザーの発言に対して適切な応答を生成することで、人間とコンピュータの間に自然な会話を生み出しました。ELIZAは「チャッターボット」として現代でも広く知られ、人工知能の歴史においても重要な位置を占めています。また、ワイゼンバウムはプログラムの人気に驚き、ユーザーがELIZAに心を開く様子にショックを受けたといいます。

人工知能に対する批評的視点

ワイゼンバウムは、1976年に発表した著書『Computer Power and Human Reason』（邦訳『コンピュータ・パワー 人工知能と人間の理性』）の中で、人工知能に関する自身の複雑な感情を表しています。彼は、人工知能が可能である一方で、コンピュータは同情や知恵などの人間的な特質を持たないため、重要な決定をコンピュータに任せるべきではないと考えました。彼はこれを、「人工知能は人間の感情的な背景を欠いている」と説明しています。

晩年とその影響

1996年、ワイゼンバウムはベルリンに移住し、故郷近くで暮らすようになりました。2007年には、彼の人生を描いたドキュメンタリー映画が制作され、さらに2010年には人工知能の倫理をテーマにした『Plug & Pray』が公開されました。晩年にはベルリンの電子ビジネス研究所で科学評議会の会長を務め、2008年に85歳でこの世を去っています。

ワイゼンバウムの業績と思想は、コンピュータ科学だけでなく、倫理や心理学の分野にも深く影響を与え続けています。彼の人生と仕事は、私たちがテクノロジーとどのように向き合うべきかを考えさせる重要な要素となっています。

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