ジョゼ・ベナゼラフ

ジョゼ・ベナゼラフは、1922年1月8日にモロッコのカサブランカで生まれたフランスの映画人です。監督、脚本家、プロデューサーとして多岐にわたる活動を行い、2012年12月1日に90歳でその生涯を閉じました。彼はフランス屈指のエリート校であるパリ政治学院を卒業するという異色の経歴の持ち主であり、そのキャリアは大手映画会社パテ社でのプロデュース業から始まりました。家系的なコネクションを活かして企画を持ち込み、ピエール・ガスパール＝ユイ監督の『Les lavandières du Portugal』を製作したのが最初期の仕事です。続いて、イヴ・アレグレ監督の『La Fille de Hambourg』を手がけ、この作品ではアレグレ監督と共同で脚本を執筆し、脚本家としてもの一歩を踏み出しました。

ベナゼラフは当時の新しい映画運動であるヌーヴェルヴァーグの動向にも共感を示しており、ジャン＝リュック・ゴダールが記念すべき長編デビュー作『勝手にしやがれ』（1960年発表）を製作する際には、フランソワ・トリュフォーやクロード・シャブロルの元助監督であるフィリップ・ド・ブロカらと共に、ノンクレジットながら出演者として名を連ねています。

監督としては、1960年にダニー・フォグと共同で手掛けた『Mourir d'amour』でデビューしました。実質的な長編第二作とされる1961年の『第四の性 Le Quatrième sexe』では、ミシェル・ヴィシャール名義で撮影を行い、音楽にはルイギを起用しています。名義上は第二作ながら実質第三作にあたる1962年のスリラー映画『Le Concerto de la peur』では、音楽をチェット・ベイカーが担当し、続く代表作となる『濡れた砂丘』でも楽曲を提供しました。

1963年に発表された『濡れた砂丘 L'éternité pour nous』を境に、ベナゼラフの作風はエロティックな方向へと大きく傾倒していきます。この作品は、アラン・レネ監督の『去年マリエンバートで』からの影響や類似性が指摘されるような、芸術的な側面も持ち合わせた作品でした。また、同時期の『湖のもだえ』はルキノ・ヴィスコンティ作品のある種の模倣（フェイク）とも評されました。

時代が進むにつれ、彼の描く映像表現はより大胆かつ露骨になり、1970年代半ばからは意図的にポルノグラフィックな作品を追求する監督へと変貌を遂げていきました。反ブルジョワ的な姿勢はそのままに、既存の道徳観や価値観に挑戦するかのような作風を展開し、極めて多作な監督として知られるようになります。1970年代末には、劇場公開を経ず、ビデオ流通を主な販路とするという独自の戦略を採り、その作品を世に送り出し続けました。

長らくポルノグラフィーの世界で活動したベナゼラフですが、その業績は次第に再評価されるようになります。1997年には、パリのシネマテーク・フランセーズで大規模な回顧上映が開催され、彼の多様な作品群が改めて注目を集める契機となりました。さらに、2007年にはエルベール・P・マテーズによる学術的な研究書『Jose Benazeraf, la caméra irréductible』が出版され、彼の作品やキャリアに関する詳細な分析が行われました。この著作によって、彼の名の正しい綴りが「Jose Benazeraf」であることが広く認識されるようにもなりました。

ジョゼ・ベナゼラフは、正統な映画界でキャリアをスタートさせながらも、ヌーヴェルヴァーグとの交流、そして大胆な性表現を追求した多作な監督として、フランス映画史において異彩を放つ存在です。特に後期の膨大なポルノ作品群は、一部からは批判の対象となりながらも、その反骨精神と独自の美学を評価する声もあります。彼は2012年12月1日、90歳で波乱に満ちた生涯を終えましたが、その遺した作品群は今なお議論の対象となり、研究の対象となっています。彼のキャリアの軌跡は、エリート出身者でありながら既成概念に囚われず、自身の芸術的、あるいは商業的な探求心に従って道を切り開いた映画人の姿を映し出しています。

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