ジョッフル (空母)

ジョッフル (Joffre): 夭折したフランス海軍の空母

第二次世界大戦の勃発により建造が中止された、フランス海軍の航空母艦「ジョッフル」 。その悲運な歴史と、実現しなかった壮大な計画について見ていきましょう。

設計と建造計画

「ジョッフル」は、フランス海軍が「ベアルン」の運用経験を踏まえ建造を決定した2隻の正規空母の1番艦です。ワシントン海軍軍縮条約により、空母1隻あたりの排水量は18,000トンに制限され、これは軽巡洋艦2隻分に相当する規模でした。

艦名の由来は、第一次世界大戦でフランス軍を勝利に導いたジョゼフ・ジョッフル元帥から来ています。同艦の設計は、巨大な艦橋と重量バランスを取るため、飛行甲板が左舷にオフセットされた特異な形状が特徴でした。

兵装は、艦橋の前後に配置された両用砲と複数の対空機銃が予定されていました。航空機運用のための設備として、飛行甲板後部には外部リフトが1基、艦橋前部にはT字型に配置されたもう1基のリフトの設置が計画されていました。格納庫は2段式で、上段は159m×21m、下段は70m×16mという広大な空間を有していました。

搭載予定だった航空機は、ドボワチン D.790戦闘機（D.520の海軍型）約15機と、ブレゲー 810攻撃機（ブレゲー 693の海軍型）約25機、合計約40機にのぼりました。これだけの航空機を搭載できる能力は、当時の空母としては非常に強力なものでした。

悲運の艦歴

「ジョッフル」は、1938年11月26日、サン・ナゼールにあるペノエ造船所で起工しました。しかし、第二次世界大戦の勃発により建造は遅延を余儀なくされ、1940年6月のドイツ軍によるフランス侵攻によって、ついに建造中止が決定されました。この時点での建造進捗率はわずか20％でした。

すでに組み立てられていた船体は、そのままドックで解体されました。一部の資材や設備は、姉妹艦である「パンルヴェ」に転用される予定でしたが、「パンルヴェ」は起工されることなく、計画は完全に頓挫しました。

未完の巨艦

「ジョッフル」は、完成を見ることなくその生涯を終えた、いわば「幻の空母」と言えるでしょう。もし完成していたならば、フランス海軍の戦力に大きく貢献したことは間違いありません。しかし、歴史の波に翻弄され、その姿を現代に見せることは叶いませんでした。その存在は、戦争の残酷さと、実現しなかった可能性を私たちに突きつけます。ワシントン海軍軍縮条約という国際情勢の制約を受けながらも、フランス海軍が抱いた野望と、その挫折を象徴する存在と言えるでしょう。

関連項目

* フランス海軍艦艇一覧

もう一度検索