ジョナサン・バトラー

1961年 10月10日、南アフリカのケープタウンに生まれたジョナサン・バトラーは、グラミー賞に2度ノミネートされた経歴を持つ、国際的に評価されるシンガー兼ギタリストです。彼の音楽は、ポップスやフュージョンを基盤としながらも、ゴスペルやR&B、そして故郷南アフリカの音楽の要素を融合させた独自のサウンドを築いています。

生い立ちとキャリアの始まり

バトラーは、アパルトヘイト（人種隔離政策）が厳格に行われていた当時の南アフリカで育ちました。彼は16人という大家族、7人兄弟の末っ子として生まれ、音楽が身近にある環境で成長します。わずか7歳にしてすでにステージに立ち、歌や弦楽器の演奏を披露するなど、幼い頃から非凡な才能を見せていました。13歳の時、イギリスの音楽プロデューサー、クライヴ・カルダーの目に留まり、彼の主宰するジャイヴ・レコードと契約を結びます。1980年代初頭には、レコード会社の拠点がイギリスにあったこともあり、生活の場をイギリスに移しました。この移住は、音楽活動の機会を得るためだけでなく、当時の南アフリカにおけるアパルトヘイトという抑圧的な環境から逃れるためという意味合いも大きかったと考えられています。彼はその後17年間にわたりイギリスに滞在しましたが、現在はアメリカのロサンゼルスを拠点に活動しています。

メジャーデビューと成功

1985年、アルバム『イントロデューシング・ジョナサン・バトラー』でメジャーデビューを果たします。当初はインストゥルメンタル曲が中心でしたが、続く1987年のセルフタイトルアルバム『ジョナサン・バトラー』ではボーカル曲を大幅にフィーチャーし、これがポップスシーンでの知名度向上に繋がりました。このアルバムからのシングル「Lies」はヒットを記録し、アメリカのビルボード・シングル・チャートで27位にランクイン。この楽曲によって、彼は初のグラミー賞ノミネートという栄誉に輝きました。

ジャンルの広がりとグラミー再ノミネート

キャリアを通じて、バトラーは様々なレーベルを渡り歩きながら音楽性を広げていきました。マーキュリー、N2K、ワーナー、ランデヴーといったレーベルでの活動を経て、特にゴスペル音楽への傾倒を深めていきます。2006年には、ゴスペルとクラシックを融合させたプロジェクトアルバム『Gospel Goes Classical』にボーカリストとして参加。このアルバムは、ビルボードのゴスペル・チャートで2位、クラシカル・クロスオーバー・チャートで3位という高評価を得ました。アルバム収録曲である「Going Home」は、彼に2度目のグラミー賞ノミネートをもたらしました。

2007年には、クリスチャン・ミュージックに特化したレーベル、Maranatha!よりゴスペルアルバム『Brand New Day』を発表するなど、このジャンルでの存在感を確立します。同年10月には、自身の故郷である南アフリカでのライブを収録したアルバム『ライヴ・イン・サウス・アフリカ』をリリースし、ルーツへの回帰も見せました。

多様なコラボレーションと社会への関心

バトラーは自身のリーダー作品だけでなく、他のアーティストとの共演や楽曲提供にも積極的に取り組んでいます。2008年には、ジャズ界の巨匠ジョージ・デュークのアルバム『デューキー・トリーツ』にゲストシンガーとして参加。特に、アルバムに収録された楽曲「Sudan」では、故ティーナ・マリーと共に、スーダンにおけるダルフール紛争の悲劇を歌い上げ、社会問題に対する関心も示しました。

世界を股にかける活動

彼の音楽は南アフリカやアメリカに留まらず、ヨーロッパ、日本、そしてその他のアフリカ諸国など世界中で愛されています。精力的にツアーを行い、多くのファンにそのパフォーマンスを届けています。近年では、2013年に来日公演を行うなど、日本との繋がりも保っています。

ジョナサン・バトラーは、アパルトヘイトという困難な時代に生まれながらも、音楽によって自身のキャリアを切り開き、多様なジャンルで成功を収めた稀有なアーティストです。その温かくソウルフルな歌声と、卓越したギターテクニックで、今なお多くの人々を魅了し続けています。

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