ジョモ・ケニヤッタ

ジョモ・ケニヤッタ：ケニア建国の父とその複雑な遺産

ジョモ・ケニヤッタは、1893年（公式記録では、1889年から1895年の間という説もある）にケニアで生まれ、1978年に亡くなったケニアの初代首相（1963～1964年）であり、初代大統領（1964～1978年）です。ケニア独立の立役者として知られ、国民からは「ムゼー（Mzee、おじいさん）」と呼ばれ敬愛されています。しかし、彼の生涯は、建国の功績と独裁政治という複雑な側面を併せ持っています。

ケニヤッタの若年期と政治への目覚め

カマウ・ウェ・ンゲンギとして生まれた彼は、ミッション系の学校で初等教育を受けました。その後、農園労働者や商店の事務員など様々な職を経験しながら、独学で幅広い知識を習得し、キクユ族のみならず、イギリス人からも知識人として認められる存在となりました。1920年代には、キクユ中央連盟（KCA）の書記として政治活動を始めます。この頃には、食料品店「Kinyata Store」を経営していましたが、居酒屋のような営業も行っており、民族運動家の集まる場所となりました。

1929年と1931年にはKCA代表としてイギリスへ渡り、植民地省と交渉。1931年にはマハトマ・ガンディーとも会見しています。その後、ソ連へ渡りモスクワ大学で経済学を学びますが、共産主義への不信感を抱き、ロンドン大学で学び直します。ロンドン・スクール・オブ・エコノミクスでは、文化人類学者ブロニスワフ・マリノフスキに師事し、キクユ族の伝統文化を研究、1938年には『ケニア山を望んで』を出版。この時初めて「ケニヤッタ」という名前を使用しました。この本は、欧米で出版された最初のアフリカ人の著作の一つと言われています。第二次世界大戦中には、ロンドン大学の教員やイギリス軍の顧問も務めました。

独立運動とマウマウ蜂起

1946年にケニアへ帰国したケニヤッタは、1947年にケニア・アフリカ人連合（KAU）の党首に就任します。しかし、1952年にマウマウ蜂起に関与したとして逮捕され、7年間の禁錮刑を言い渡されました。ケニヤッタ自身とマウマウ蜂起の関係については、現在も様々な議論がなされています。酒好きで居酒屋経営者でもあった彼は、マウマウ団の母体の一つと言われる密輸組織とも関係があったと言われています。1959年に釈放されるまで、彼は投獄されていました。

独立後のケニアとケニヤッタの統治

1963年にケニアが独立すると、ケニヤッタは初代首相となり、翌年には大統領に就任します。大統領としては、西側諸国との友好関係を重視し、外資導入を積極的に推進することで、ケニア経済の発展に貢献しました。しかし、一方で独裁的な政治体制を敷き、一党制を導入するなど、批判も浴びることになります。また、自らの出身民族であるキクユ族を優遇した政策は、後の民族対立の火種となることになります。

ケニヤッタの功績と負の遺産

ケニヤッタは、ケニアの独立と経済発展に大きく貢献したことは間違いありません。しかし、その政治手法や民族差別政策は、ケニア社会に深い傷を残しました。「白人がアフリカにやってきたとき、われわれは土地を持ち、彼らは聖書を持っていた。彼らはわれわれに目を閉じて祈ることを教えた。われわれが目を開いたとき、彼らは土地を持ち、われわれは聖書しか持っていなかった」という言葉は、植民地支配の悲劇と、独立後の課題を象徴的に表しています。彼の功罪は、現代のケニアを考える上で、常に議論され続けています。

ケニヤッタの死後

1978年8月に死去したケニヤッタは、国葬で送られました。彼の死後も、ケニア・シリング紙幣には彼の肖像が使用され続けており、ケニア建国の父としての彼の存在感は、現在もなお、強いものがあります。彼の息子ウフル・ケニヤッタは、後にケニアの第4代大統領に就任しています。

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