ジョルジュ・シャルパク

ジョルジュ・シャルパク（Georges Charpak、1924年 3月8日 - 2010年 9月29日）は、ポーランドに生まれ、主にフランスで活躍した物理学者です。ポーランドとフランスの二重国籍を持ち、特に素粒子物理学の分野で顕著な功績を残しました。彼の最も重要な業績は、高エネルギー粒子の軌跡を精密に検出するための装置である「多線式比例計数管」の開発であり、この功績が認められて1992年にノーベル物理学賞が授与されました。

生涯

シャルパクは1924年、ポーランドのドゥブロヴィツァ村にユダヤ系の家庭に生まれました。7歳の時に家族と共にフランスへ移住し、そこで教育を受けます。しかし、第二次世界大戦が始まると、彼の人生は困難な時代を迎えます。ナチス・ドイツによるフランス占領下で、彼はレジスタンス運動に参加しました。この活動により、1943年にヴィシー政権によって逮捕・投獄されます。さらに、1944年にはナチスの悪名高いダッハウ強制収容所に送られました。ホロコーストの悲劇の只中に身を置いた彼は、収容所が解体される1945年までその過酷な環境で過ごしましたが、幸運にも生還することができました。この戦争体験は、彼のその後の人生観や研究活動にも深い影響を与えたと考えられます。

戦後、解放されたシャルパクは学業に戻ります。1945年にモンペリエの高校を卒業後、フランス屈指の高等教育機関であるパリ国立高等鉱業学校に入学しました。翌1946年にはフランスに帰化し、フランス市民としての道を歩み始めます。1948年に鉱業工学の学位を取得して同校を卒業すると、国立科学研究センター（CNRS）の研究員として働き始めました。彼は原子物理学に関心を深め、パリのコレージュ・ド・フランスでフレデリック・ジョリオ＝キュリー博士のもとで研究を行い、1954年に原子物理学の博士号を取得しました。

1959年からは、スイスにある欧州原子核研究機構（CERN）に移り、素粒子物理学の研究に没頭します。当時の素粒子実験では、粒子が通過した位置やエネルギーを正確に測定することが大きな課題でした。シャルパクは、この課題を解決するために新しい検出器の開発に取り組みます。そして1968年、彼は画期的な「多線式比例計数管」を発明しました。これは、多数の細いワイヤーを平行に並べ、粒子がガス中でイオン化した際に発生する電子をワイヤーで検出することで、粒子の飛跡を高精度かつ高速に記録できる装置でした。この発明は、それまでの検出器の性能を飛躍的に向上させ、素粒子物理学の実験手法に革命をもたらしました。特に、高速で大量に生成される素粒子を効率よく検出できるようになったことは、高エネルギー物理学の発展に不可欠でした。多線式比例計数管は、世界中の主要な加速器施設で広く採用され、素粒子の性質や相互作用の解明に大きく貢献しました。

多線式比例計数管の発明は、基礎物理学研究だけでなく、医学分野、例えばX線画像診断などにも応用されました。この卓越した技術的ブレークスルーに対し、シャルパクは様々な栄誉に輝きました。1985年にはフランス科学アカデミーの会員に選ばれ、1989年には第1回高エネルギー・素粒子物理学賞を受賞します。そして、1992年には、彼の多線式比例計数管の開発の功績が認められ、ノーベル物理学賞が単独で授与されました。

シャルパクは、科学者としての活動の傍ら、エネルギー問題など社会的な課題にも積極的に発言しました。特にフランスにおいては、原子力発電の強力な支持者として知られており、『原子力科学者会報』（Bulletin of the Atomic Scientists）誌のスポンサー委員を務めるなど、その見解を示しました。

ジョルジュ・シャルパクは2010年 9月29日、86歳でパリにて永眠しました。戦争を生き延びた経験と、科学への深い洞察力、そして革新的な技術開発力は、多くの科学者や人々に影響を与え続けています。彼の開発した多線式比例計数管は、現在も改良されながら最先端の研究に利用されており、その遺した功績は物理学の歴史に深く刻まれています。

もう一度検索