ジョン・シンガー・サージェント

ジョン・シンガー・サージェント（John Singer Sargent, 1856年1月12日 - 1925年4月14日）は、アメリカ出身の画家であり、19世紀後半から20世紀前半にかけて、ヨーロッパを中心に活動しました。

生涯と画業

サージェントは、1856年にイタリアのフィレンツェで、アメリカ人医師の子として誕生しました。幼少期をイタリアで過ごし、12歳から絵画を学び始めます。1874年にはパリへ移り、著名な画家カロリュス＝デュランに師事しました。また、エコール・デ・ボザールでも学び、アカデミックな美術教育を受けました。

1877年からは、パリのサロン（官展）に出品を開始し、その才能を開花させます。1874年から1879年までデュランのもとで修行を積んだ後、イタリアやスペインを旅し、ベラスケスなどの巨匠から大きな影響を受けました。この頃から、彼の画風は、精緻な描写と大胆な筆致が組み合わさったものへと変化していきます。

1884年、サージェントは、パリのサロンに出品した『マダムXの肖像』によって、大きなスキャンダルに巻き込まれます。この作品は、当時の上流階級の女性、ゴートロー夫人を描いたものですが、その官能的な表現が物議を醸し、批評家から激しい非難を浴びました。この騒動を機に、サージェントは1885年にロンドンへ拠点を移すこととなります。

ロンドンでは、肖像画家としての地位を確立しました。1882年からロイヤル・アカデミーに出品し、1897年には正会員に選ばれます。また、1891年には、ボストン公共図書館の壁画制作に着手するなど、アメリカの文化にも貢献しました。1887年には、印象派の巨匠モネをジヴェルニーに訪ねるなど、同時代の芸術家たちとの交流も深めています。

1905年頃からは、ほぼ毎年アメリカを訪れ、1916年にはボストン美術館のロトンダ（円形大ホール）の天井画制作を依頼されます。彼は、古代ギリシャやローマ神話に題材を得た壮大な天井画の制作、装飾レリーフのデザイン、ロトンダ全体の空間設計を手がけ、1925年に亡くなる直前まで制作に携わりました。

肖像画家として名を馳せたサージェントですが、1907年頃から肖像画の依頼を断るようになり、晩年は水彩による風景画を多く制作しました。1925年、ロンドンにて生涯を閉じました。

代表作

『マダムX（ゴートロー夫人）』 (1884年): メトロポリタン美術館所蔵。物議を醸した肖像画。
『カーネーション、リリー、リリー、ローズ』 (1885-1887年): テート・ギャラリー所蔵。日本の盆提灯やヤマ[[ユリ]]が描かれ、ジャポニスムの影響が見られる。
『エドワード・D・ボイトの娘たち』 (1882年): ボストン美術館所蔵。少女たちの無邪気な姿を描いた作品。
『ロクノーのレディ・アグニュー』 (1892-93年): スコットランド国立美術館所蔵。優雅な雰囲気が漂う肖像画。
* 『毒ガスをあびて（Gassed）』 (1919年): 帝国戦争博物館所蔵。第一次世界大戦の悲惨さを描いた作品。

サージェントの作風

サージェントの作品は、卓越した描写力と、光の表現に優れている点が特徴です。特に肖像画においては、モデルの内面までも見事に描き出し、その人物の個性や魅力を引き出すことに成功しています。また、晩年に多く描いた水彩画は、色彩豊かで、軽やかな筆致が印象的です。

サージェントは、同時代の画家たちからも高く評価され、後世の画家たちにも大きな影響を与えました。彼の作品は、現在も多くの人々に愛され、世界各地の美術館で展示されています。


サージェントは、肖像画だけでなく、水彩画、壁画など、幅広い分野でその才能を発揮し、19世紀末から20世紀初頭の美術界に大きな足跡を残した画家です。

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