ジョン・ヒック

ジョン・ヒックについて

ジョン・ヒック（John Hick, 1922年1月20日 - 2012年2月9日）は、イギリス出身の著名な宗教哲学者および神学者です。彼はカリフォルニア州にあるクレアモント大学院大学の名誉教授として、またバーミンガム大学やウェールズ大学の名誉教授としても活躍しました。ヒックはイギリス宗教哲学会の副会長や世界信仰協議会の副会長など多数の重要な役職を歴任し、その影響は深遠です。

思想の展開

ヒックは主に宗教多元論を提唱したことで知られており、その思想の発展には彼自身の宗教観の変容が大きな役割を果たしました。かつては伝統的な福音主義者であった彼は、文化や宗教の多様性を目の当たりにする中で、「神の愛」とこれらの現象を調和させることの意義について考えるようになりました。この過程を通じて、彼は宗教多元論の立場に移行していったのです。

彼の考え方は特に日本の作家、遠藤周作に影響を与えました。遠藤の晩年の作品『深い河』には、ヒックの思想が色濃く反映されていることが指摘されています。言わば、ヒックの多元論は、人々がそれぞれの文化や家庭の影響を受けて宗教を受け入れることを前提に、すべての宗教がそれ相応の道を示しているという考え方です。

キリスト教の排他性への疑問

ヒックは、キリスト教が唯一の救済の手段とされることに疑問を投げかけました。もしキリスト教信者でない人々が神の救いを受けられないのなら、彼らは無知のために降りかかる運命に捨て去られるのでしょうか。彼はこの考えが、神の愛についての説と矛盾していると論じました。ヒックの判断によれば、現在の宗教的な信仰は多くの場合、文化的な背景に基づいているため、人々が信じることを選択したというよりは、与えられた環境の中で信仰を受け入れているとされたのです。

伝統的な福音主義は、他の宗教を排除し、唯一無二の救いを確保しようとする一方で、ヒックはこのような排他主義を否定しました。彼は宗教が文化によって相対的であり、同じ「真実」に対する応答としての関係が存在することを示そうとしました。この考え方は、キリスト教を含むモノテイズムと多神教が共存できる余地をもつことを強調します。

三位一体の否定

また、ヒックは従来の三位一体の教義を拒否し、イエスを神の預言者であると位置づけました。彼はイエスを神そのものではなく、愛と慈悲を具現化した人間として評価し、この観点からキリスト教における歴史的な罪悪を批判しました。彼にとって、神の受肉の教義は比喩であり、宗教的理解のメタファーと考えるべきであるという立場を取っています。

ハルシネーションに対する反論と提案

ヒックに対する批判者たちは、福音について知らない人々の存在を否定するか、或いはそれらの人々が地獄に堕ちることはないと主張します。しかし、ヒックはこのような考えが神の愛とは相容れないと見なしました。

彼が著した論文「位格の復活」では、死後の生に関する理論を展開しました。ここで彼は、個人が新たな存在として再生された場合、もとの個人と同一性を保ちながらも異なる世界に存在することが論理的に可能であると述べています。この見解は、宗教的な真理が文化や個々の存在において相対的であるという考え方を更に深めるものであり、ヒック自身の哲学に新たな視点をもたらしました。

主な著作

ヒックの思想は、多くの著作を通じて具現化されています。その中には『Evil and the God of Love』や『The Myth of Christian Uniqueness』などがあり、宗教に関する深い洞察や論考が展開されています。これらの著作は、彼の思想を理解する上で欠かせないものとなっています。

2012年、ヒックは90歳でこの世を去りましたが、彼の思想は今もなお多くの人々に影響を与え続けています。

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