ジョン・ヒンチ

ジョン・ヒンチ

英国の音楽界において、特にヘヴィメタル史に名を刻んだドラマーの一人、ジョン・ヒンチ（John Hinch）は、1947年6月19日に生まれ、2021年4月29日に73歳でその生涯を閉じました。

キャリアの軌跡

ヒンチの音楽活動のキャリアは、英国有数の工業都市であるバーミンガムのローカルシーンから始まりました。様々なバンドで経験を積んだ後、後のジューダス・プリーストで苦楽を共にするボーカリスト、ロブ・ハルフォードとは、バンド「ヒロシマ」（Hiroshima）で1972年から約1年間活動を共にしました。

運命的な転機は1973年5月に訪れます。ヒロシマの演奏を目の当たりにしたK・K・ダウニング（ギター）とイアン・ヒル（ベース）から声がかかり、彼らが結成したばかりのバンド、ジューダス・プリーストに迎え入れられたのです。バンド加入後、ヒンチは彼らにとって記念すべきファーストアルバム『ロッカ・ローラ』（Rocca Rolla、1974年発表）のレコーディングに参加します。

当時のジューダス・プリーストはまだ黎明期であり、彼はドラマーとしてだけでなく、バンドの移動手段を確保するための運転手や、マネージメント業務の一端も担うなど、裏方としてもバンドを支えました。

独自のドラムスタイル

ヒンチのドラムスタイルは、当時のヘヴィメタルシーンにおいて特異な存在感を放っていました。多くのドラマーがツインペダルや多数のタム、シンバルを駆使する中、彼はバスドラム1台というシンプルなセッティングを貫いたのです。これはジャズやジャズロックのスタイルに根ざしたものであり、スネア、シングル・バスドラム、シングル・タムタム、シングル・フロアタムという伝統的なキット構成で、ジャズからハードロックまで幅広いジャンルのサウンドを表現しました。そのミニマルながらも力強いビートは、『ロッカ・ローラ』において重要な要素となっています。

脱退とその後の歩み

しかし、ジューダス・プリーストにおける彼のキャリアは長くは続きませんでした。共同ギタリストであるグレン・ティプトンとの音楽的な方向性や意見の相違、人間関係の対立などが生じ、加入からわずか2年後の1975年にバンドを離れることとなります。

バンド脱退後、ヒンチは演奏者としての活動から距離を置き、音楽業界の裏方であるマネージメント業務へと活躍の場を移しました。元スコーピオンズのギタリストとして知られるウリ・ジョン・ロートをはじめ、多くのアーティストのサポートに携わりました。

私生活と晩年

私生活では、1987年7月にジェーン・ダユスと結婚しますが、2010年に離婚しています。二人の間には息子のフレイザーが誕生しています。

晩年、ヒンチは自身が在籍したジューダス・プリーストの歴史について、積極的に語るようになりました。音楽伝記作家やインタビュアーからの取材に応じ、バンドの黎明期に関する貴重な証言を残しています。また、バンドの公式伝記『Judas Priest Defenders of the Faith』の製作においても重要な協力者の一人となりました。

遺されたもの

ジョン・ヒンチは2021年4月29日、73歳でその生涯を閉じました。彼の訃報に際し、ジューダス・プリースト時代の盟友であるロブ・ハルフォードは、その力強く直接的でユニークなドラムスタイルを称賛し、「今日は『ロッカ・ローラ』を贈る」と追悼の意を表しました。また、K・K・ダウニングも彼を追悼し、「ジョンは常に信頼できる存在であり、そのドラムの才能は非の打ち所がなく、自身の能力を最大限に引き出してくれた」とその人柄と貢献を称えました。ジューダス・プリーストの初期を支え、そのサウンドに独自の彩りを与えた彼の功績は、今もなお多くのファンに記憶されています。

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