ジョン・L・オースティン

ジョン・ラングショー・オースティン：言語哲学の巨匠

ジョン・ラングショー・オースティン（1911年3月26日-1960年2月8日）は、20世紀イギリスを代表する哲学者の一人であり、日常言語学派の中心人物として名高い人物です。オックスフォード大学教授を務め、ウィトゲンシュタインと並び称されるほどの影響力を持ち、現代の言語哲学、特に「発話行為論」に計り知れない貢献をしました。彼の研究は、言語のもつ多様な機能を深く探求し、哲学と思想に新たな地平を開いたと言えるでしょう。

生涯と学問的経歴

1911年、イギリスのランカスターに生まれたオースティンは、オックスフォード大学のベリオール・カレッジに入学。古代ギリシャ語を専攻し、アリストテレスの哲学に深く触れることで、後の研究の礎を築きました。卒業後、オール・ソウルズ・カレッジ、モードリン・カレッジとフェローシップを得て、哲学研究を本格化させます。1952年にはホワイト記念道徳哲学教授に就任し、オックスフォード大学における彼の地位を確固たるものにしました。しかし、1960年、わずか49歳で夭折したことは、学界に大きな損失をもたらしました。

発話行為理論：言語の新たな地平

オースティン以前の哲学や言語学では、言語は主に事実を述べるための道具として捉えられていました。しかし、オースティンは、言語が単に事実を述べるだけでなく、命令や約束、質問など、様々な行為を遂行する機能を持つことに着目しました。彼は、この言語の機能を「発話行為（speech act）」と名付け、その本質を探究しました。

オースティンの発話行為理論の中心概念は、発話行為を「発話行為の遂行（performative）」、「発話行為の記述（constative）」という2つの側面から分析する点です。例えば、「私はあなたを許す」という発話では、単に事実を述べているのではなく、許すという行為自体を行っていると言えるわけです。彼の理論は、言語が持つ力強さ、つまり、言葉によって現実世界に影響を与える可能性に着目したものです。さらに、現実の使用状況を離れて言葉の意味を論じることへの批判も展開しました。これは、意味の理解に、実際の言語使用の文脈が不可欠であるという、彼の重要な洞察を示しています。

後世への影響

オースティンの発話行為論は、サールなどの哲学者によってさらに発展させられ、現代の言語哲学や語用論の基礎を築きました。彼の業績は、コミュニケーションにおける言語の役割を理解する上で極めて重要なものであり、現在もなお、多くの研究者たちに影響を与え続けています。

主要著書

オースティンの著作は、彼の思想を理解するために不可欠です。主な著書には、以下のようなものがあります。

『Philosophical Papers』(1961年): 彼の主要な論文を収録したもので、発話行為理論の基礎となる概念が提示されています。
『How to Do Things with Words』(1962年): 発話行為論の集大成とも言うべき著作で、言語が現実世界に影響を与えるメカニズムを詳細に分析しています。日本語訳は複数あり、『言語と行為』や『言語と行為――いかにして言葉でものごとを行うか』として刊行されています。
* 『Sense and Sensibilia』(1964年): 知覚に関する彼の考え方がまとめられています。日本語訳として『知覚の言語: センスとセンシビリア』が刊行されています。

オースティンの著作は、高度な専門性を求められますが、言語と現実世界の関係について深く考えたい人にとって、必読書と言えるでしょう。彼の思想は、現代社会において、ますます重要性を増していると言えるでしょう。

もう一度検索