ジョージ・ラムトン

ジョージ・ラムトン (1860-1945) は、イギリス競馬界に多大な貢献を果たした伝説的な調教師です。貴族階級出身である彼は、イートン・カレッジとケンブリッジ大学で教育を受け、洗練された紳士的な振る舞いで知られていました。その類まれな相馬眼と卓越した調教技術で、イギリス競馬界に大きな影響を与え、長きにわたり第一線で活躍しました。

ラムトンは若い頃から競馬に深く関与していました。アマチュア騎手として活躍し、パリ大障害優勝などの実績を残しています。しかし、落馬事故をきっかけに調教師への転身を決意。1893年、第16代ダービー伯爵の専属調教師に就任します。これは、まだ実績の少ないラムトンにとって、大きな抜擢でした。伯爵の息子であるエドワード（後の第17代ダービー伯爵）の強い推薦があったからこそ実現したものです。

ダービー伯爵専属調教師として、ラムトンは数々の成功を収めます。1896年にはオークス優勝馬カンタベリーピルグリムを、1906年にはキーストーンIIを輩出。ダービー伯爵とのコンビは、イギリス競馬史上に名を残すほどでした。この期間に、彼らが獲得した勝利数は1000を超えたと言われています。ダービー伯爵が所有する牧場であるセフトン牧場を管理、運営も担当しました。

第16代ダービー伯爵の死後も、ラムトンは第17代ダービー伯爵のもとで活躍を続けます。10頭のクラシック三冠競走優勝馬を輩出し、その中にはサンソヴィーノ（1924年ダービー）、ハイペリオン（1933年ダービー、セントレジャー）などの名馬が含まれています。ラムトンは、アメリカからの競馬界への影響にも対応。アメリカ人騎手トッド・スローンの新しい騎乗スタイルを批判する一方、アメリカ人調教師エノク・ウィシャードの実力も認めていました。兄であるダラム伯爵と共に、イギリス競馬界における薬物投与禁止規則の制定にも貢献しています。アメリカ競馬の優れた技術や調教法も積極的に取り入れるなど、柔軟な姿勢も持ち合わせていました。

ラムトンは、アガ・カーンからも競走馬の購入を委託されていました。1922年には、ムムタズマハルを当時としては高額で落札し、後のアガ・カーンの成功に貢献しました。しかし、高齢になったことで、第17代ダービー伯爵から専属調教師の座を譲るよう要請され、1926年にフランク・バターズにその座を譲りました。それでも、スタンリー・ハウス牧場で競走馬の管理・調教に携わり続けました。晩年、全く見込みのないとされた小さな2歳馬ハイペリオンの才能を見抜き、その後のダービー優勝に繋げました。

1933年、73歳の高齢でフリーの調教師となりましたが、1945年に84歳で亡くなるまで、調教師としての仕事に情熱を燃やし続けました。ラムトンの功績は、イギリス競馬界に大きな足跡を残し、後世に語り継がれています。彼の卓越した相馬眼と調教技術、そして紳士的な人柄は、多くの競馬関係者に敬愛されています。ラムトンの生涯は、貴族出身の調教師がどのように競馬界に貢献したかを示す、貴重な物語です。ラムトンは、イギリス競馬の黄金時代を代表する人物として、歴史に刻まれています。

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