ジョー・リギンス

ジョー・リギンス

ジョー・リギンス（Joe Liggins、1916年7月9日 - 1987年7月26日）は、20世紀半ばのアメリカ音楽シーンにおいて、リズム・アンド・ブルース、ジャズ、ブルースのジャンルで活躍した卓越したピアニスト、バンドリーダーです。特に1940年代から1950年代にかけて、彼がフロントマンを務めたバンド「ジョー・リギンス・アンド・ヒズ・ハニードリッパーズ (Joe Liggins and His Honeydrippers)」は、当時の音楽界に大きな足跡を残しました。

音楽キャリアと代表作

リギンス率いるハニードリッパーズは、当時の権威ある音楽雑誌『ビルボード』のR&Bチャート（当時は「レイス・チャート」と呼ばれていました）で目覚ましい活躍を見せました。中でも、1945年に発表された楽曲「ザ・ハニードリッパー (The Honeydripper)」は、彼のキャリアにおける決定的な一曲となります。このシングルの成功は尋常ではなく、1945年9月8日付のビルボードR&Bチャートで首位を獲得すると、その後18週間にわたってその座を守り続けました。これは、同じくジャンプ・ブルースの巨匠であるルイ・ジョーダンの「Choo Choo Ch'Boogie」が1946年に記録した18週首位（ただし不連続）と並ぶ、ビルボードR&Bチャートにおける歴代最長首位タイ記録として、音楽史にその名を刻んでいます。この歴史的なヒットシングルは、推定で200万枚を超える驚異的なセールスを記録したと言われています。

リギンスの成功は「ザ・ハニードリッパー」だけに留まりませんでした。1950年にはスペシャルティ・レコードと契約を結び、「Rag Mop」「Boom-Chick-A-Boogie」「Pink Champagne」「Little Joe's Boogie」といったヒット曲を次々と生み出しました。特に「Pink Champagne」と「I Gotta Right to Cry」は、それぞれ100万枚を超える売り上げを記録し、ゴールドディスクを獲得するなど、彼の人気と実力を不動のものとしました。

音楽スタイルと貢献

ジョー・リギンスの音楽は、跳ねるようなリズムが特徴のジャンプ・ブルースと、オーソドックスなリズム・アンド・ブルースを巧みに融合させたスタイルでした。彼は、ロイ・ミルトンと並んで、第二次世界大戦終結後の十年間における小編成バンドによるジャンプ・ブルースというジャンルを確立し、発展させた重要な立役者の一人です。彼の楽曲は、その後のロックンロールの萌芽期にも影響を与えたと言われています。

生涯の歩み

リギンスは1916年にオクラホマ州セミノールで生を受けました。1932年にカリフォルニア州サンディエゴへ移り住み、その後1939年にはロサンゼルスへと活動の拠点を移します。ロサンゼルスでは、サミー・フランクリン率いる「カリフォルニア・リズム・ラスカルズ (Sammy Franklin's California Rhythm Rascals)」など、いくつかのグループでピアニストとしてキャリアを積みました。自身のバンドを結成するきっかけとなったのは、サミー・フランクリンがリギンス自身の作曲した「ザ・ハニードリッパー」の録音を認めなかったことでした。これを機に、リギンスは自身の音楽を追求するため、バンド結成を決意します。

「ジョー・リギンス・アンド・ヒズ・ハニードリッパーズ」は、ロサンゼルスを拠点とするサクソフォーン奏者、リトル・ウィリー・ジャクソン氏の自宅の地下室で結成されました。ジャクソン氏はバンドの共同創設者であり、2000年に死去するまで存命していた唯一のオリジナルメンバーでした。バンドの最初の録音は、レオン・ルネとオーティス・ルネ兄弟が設立したエクスクルーシヴ・レコードからリリースされました。

リギンスはキャリアを通じて、ジミー・ウィザースプーン、エイモス・ミルバーン、シャウト歌手のH＝ボム・ファーガソンといった同時代の著名なアーティストたちともツアーを行うなど、精力的に活動しました。1954年3月には、ロサンゼルスのClub 5-4で開催されたスタン・ゲッツの妻のためのチャリティイベントに出演した記録も残っています。1950年代後半にはかつてのような爆発的な人気は落ち着いたものの、彼は音楽活動を続けました。1987年7月26日、カリフォルニア州リンウッドで、脳梗塞のため72歳でその生涯を終えました。

ハニードリッパーズの主要メンバー

ジョー・リギンス・アンド・ヒズ・ハニードリッパーズの主なメンバーは以下の通りです。

リトル・ウィリー・ジャクソン (Little Willie Jackson) - アルト/バリトン・サックス
ジェームズ・ジャクソン・Jr. (James Jackson, Jr.) - テナー・サックス
ペッピー・プリンス (Peppy Prince) - ドラムス、パーカッション
エディ・デイヴィス (Eddie Davis) - ベース
フランク・ペイズリー (Frank Paisley) - ギター

主要ディスコグラフィ

ジョー・リギンスとそのバンドは、数多くのアルバムやコンピレーションをリリースしています。

Honeydripper (1962年、Mercury)
『ジョー・リギンス・アンド・ザ・ハニードリッパーズ』 - Great Rhythm & Blues Oldies, Volume 6: Joe Liggins & The Honeydrippers (1974年、Blues Spectrum)
Joe & Jimmy Liggins: Saturday Night Boogie Woogie Man (1976年、Sonet)
Joe Liggins & His Honeydrippers: Darktown Strutters Ball (1981年、Jukebox Lil) ※1945年–1950年録音
Joe Liggins With the Original Million-Seller "The Honeydripper" (1988年、Jukebox Lil) ※1945年–1949年録音
Joe Liggins & The Honeydrippers (1989年、Specialty)
Dripper's Boogie: Joe Liggins & The Honeydrippers – Vol. 2 (1992年、Specialty)
『ピンク・シャンペーン』 - Pink Champagne (1993年、P-Vine)
The Honeydripper: Rare And Unreleased Recordings 1946–1949 (1996年、Night Train International)
The Shuffle Boogie King (2002年、Proper Pairs)
The Chronological Joe Liggins 1944–1946 (2002年、Classics 'Blues & Rhythm Series')
The Chronological Joe Liggins 1946–1948 (2003年、Classics 'Blues & Rhythm Series')
The Chronological Joe Liggins 1948–1950 (2004年、Classics 'Blues & Rhythm Series')
The Chronological Joe Liggins 1950–1952 (2005年、Classics 'Blues & Rhythm Series')
Jukebox Hits 1945–1951 (2008年、Acrobat)
The Joe Liggins Collection 1944–1957 (2016年、Acrobat)
『グレイテスト・ヒッツ 1945-1957』 - The Greatest Hits 1945-1957 Centenary Edition (2016年、Jasmine)

ジョー・リギンスは、その革新的な音楽スタイルとチャートにおける歴史的な成功により、戦後のアメリカ音楽、特にリズム・アンド・ブルースとジャンプ・ブルースの発展に不可欠な存在として記憶されています。

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