ジルベルト・フレイレ:ブラジル文化の深層を探る社会学者
ジルベルト・デ・メロ・フレイレ(
1900年-
1987年)は、
20世紀ブラジルを代表する社会学者、文化人類学者、歴史家です。
ブラジル北東部の裕福な砂糖きび農園主の家庭に生まれ、エリート教育を受けました。幼少期から青年期にかけては、
アメリカ合衆国で神学を学ぶなど、国際的な視野を養いました。しかし、アメリカでの人種差別や
プロテスタント教会への疑問から、宣教師の道を断念。その後、
コロンビア大学大学院で人類学者
フランツ・ボアズに師事し、
文化相対主義の考え方に深く触れました。
学問的形成と代表作『大邸宅と奴隷小屋』
フレイレの学問的基盤は、ボアズによる
文化相対主義の影響を色濃く反映しています。人種や地理的要因だけでなく、文化的・環境的な要因も考慮した、多角的な視点が彼の研究の特徴です。
コロンビア大学在学中には、19世紀
ブラジルの奴隷と
イギリスの労働者の生活を比較した修士論文を発表し、高い評価を受けました。
帰国後、フレイレはジャーナリストとして活躍する傍ら、
1933年に彼の代表作『大邸宅と奴隷小屋(Casa-Grande & Senzala)』を発表しました。この著作は、
ブラジルの植民地時代における
プランテーション社会を詳細に分析し、
ポルトガル人、先住民、アフリカ系奴隷の三つの文化が混交した独特の
ブラジル社会の形成過程を解き明かしています。西洋中心主義的な偏見を排し、熱帯気候や混血化といった
ブラジル社会の現実を肯定的に捉えた点は、当時大きな衝撃を与えました。
ブラジル人のアイデンティティ形成に多大な影響を与え、欧米諸国でも高く評価され、西洋思想の古典として位置付けられています。
波乱に満ちた生涯と政治的立場
フレイレの生涯は、学問的探求のみならず、政治的変動とも深く関わっていました。ヴァルガス政権下の軍事クーデターにより職を失い、
ポルトガルへの亡命を余儀なくされた時期もありました。この間も、彼は精力的に研究を続け、『大邸宅と奴隷小屋』の資料収集を行いました。
ブラジル帰国後は、大学教授や議員として活躍し、新憲法制定にも参画しました。また、
ブラジル北東部の研究機関であるジョアキン・ナブーコ社会調査研究所の設立にも尽力しました。晩年には、イベロアメリカ共同研究所最高顧問に任命されるなど、国際的な評価も高まりました。
1964年の軍事クーデターでは、反共保守派としてクーデターを支持したという記録もあります。
フレイレの遺産
フレイレの著作は、
ブラジル文化研究に多大な貢献を果たしました。彼の業績は、単なる歴史的記述にとどまらず、現代
ブラジル社会の理解を深める上で不可欠なものです。多様な文化が混交する社会におけるアイデンティティ形成、植民地主義の影響、人種・階級間の関係など、フレイレの研究は、現代社会の抱える問題を考える上でも、重要な示唆を与えてくれます。彼の著作は、今も世界中で読まれ、新たな解釈が加えられ続けています。
参考文献
Joseph A. Page (1995), The Brazilians. Da Capo Press. ISBN 0-201-44191-8.
Gilberto Freyre Foundation - Gilberto Freyre's Virtual Library - http://www.bvgf.fgf.org.br
* その他、本文中に記載されている参考文献