ジンプリチシムス

『ジンプリチシムス』は、1896年4月、アルベルト・ランゲンによってミュンヘンで創刊されたドイツの風刺週刊誌、文芸誌です。誌名は、1668年のハンス・ヤーコプ・クリストフ・フォン・グリンメルスハウゼンの小説『阿呆物語』に由来しています。

ランゲンは、パリで出版社として活動した後、ミュンヘンに移り、『ジンプリチシムス』を創刊しました。この雑誌は、ドイツの社会や政治を風刺する記事や、優れた文学作品、美術作品を発表することで知られるようになりました。

同誌には、トーマス・マン、ライナー・マリア・リルケ、ヘルマン・ヘッセ、グスタフ・マイリンクといった著名な文学者や、ハインリヒ・クレイ、アルフレート・クービン、オットー・ニュッケルといった著名な美術家が作品を発表しました。これらの芸術家たちは、雑誌の風刺的な表現や革新的なデザインに魅了され、積極的に参加しました。

しかし、『ジンプリチシムス』の活動は常に危険を伴いました。1898年、皇帝ヴィルヘルム2世を風刺した表紙絵が掲載されたことで、雑誌は没収され、ランゲンはスイスに亡命、罰金刑を科せられました。挿絵画家トーマス・ハイネは懲役6ヶ月、寄稿者フランク・ヴェーデキントは懲役7ヶ月の判決を受けました。1906年には、ルートヴィヒ・トーマが記事の内容を理由に逮捕され、6ヶ月間投獄されました。これらの事件は、雑誌に大きな注目を集め、発行部数はピーク時には8万5千部にも達しました。

第一次世界大戦中は、戦争遂行に協力する姿勢を見せましたが、戦後、その風刺的な性格は再び社会批判の重要な手段となりました。しかし、ワイマール共和政時代にも、左翼、右翼両勢力の過激な行動を批判する姿勢を貫きました。

ナチスが台頭するにつれて、『ジンプリチシムス』は、体制からの圧力を受けるようになりました。ユダヤ人の編集者であったトーマス・ハイネは辞任を余儀なくされ、追放されました。それでも、カール・アルノルト、オラフ・ガルブランソン、エドワード・テニーといった美術家たちの尽力により、1944年まで刊行が続けられました。

第二次世界大戦後、1954年に復刊され、1967年まで出版されました。1964年からは隔週刊となりました。

『ジンプリチシムス』は、ドイツにおける社会風刺の歴史において、重要な役割を果たした雑誌です。その歴史は、表現の自由と、権力に対する抵抗の物語として、現代においても重要な意味を持ち続けています。同誌は、単なる風刺誌という枠を超え、ドイツの文化・社会を反映する鏡として、時代の変遷を映し出しました。その活動は、多くの芸術家や作家の才能を開花させ、ドイツ文学・美術史に多大な貢献を果たしました。著名な芸術家や作家が数多く参加したことは、同誌の持つ影響力の大きさを物語っています。

雑誌が多くの困難に直面しながらも、出版を継続できた背景には、表現の自由への強い意志と、編集者、芸術家、作家の献身的な努力があったと言えます。現代社会においても、権力や既成概念への批判、表現の自由の重要性を改めて考えさせられる、歴史的な存在と言えるでしょう。

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