スイス・アーミー・マン

スイス・アーミー・マン（Swiss Army Man）

2016年に製作されたアメリカ合衆国のドラマ映画。監督と脚本は、ダニエル・シャイナートとダニエル・クワンによるクリエイターユニット「ダニエルズ」が手掛けた。主演はポール・ダノとダニエル・ラドクリフが務め、特異な設定と物語で観客に強い印象を与えた。

作品は2016年1月22日のサンダンス映画祭で世界初公開され、その後、同年6月24日に一部劇場で先行上映、7月1日には全米で拡大公開された。批評家からは概ね肯定的な評価を得ている。日本では、2017年9月22日にTOHOシネマズ シャンテ他で公開された。

原題の『Swiss Army Man』は、作中に登場する死体がスイスアーミーナイフのように多様な能力を発揮することに由来している。

ストーリー

孤島の浜辺に漂着したハンクは、極限状況の絶望から自殺を試みる。その時、波打ち際に一体の死体が打ち上げられる。ハンクは蘇生を試みるが叶わず、死体はガスで膨張し、水面に浮かぶ。さらに驚くべきことに、その死体はガスの噴射によって驚くべき推進力を生み出していた。ハンクはその死体に跨り、まるで水上バイクのように沖へと向かい、かろうじて別の大きな島にたどり着くが、そこもまた無人島だった。

その夜、ハンクは死体と共に洞窟で一夜を過ごす。夜の雨水が死体の口に入り込み、彼にとって貴重な飲料水となる。そして翌朝、さらに奇妙なことが起こる。死体が突如として英語を話し始め、自らをメニーと名乗ったのだ。生前の記憶を一切失っているメニーに、ハンクは様々な世界のことを教え始める。浜辺で見つけたポルノ雑誌によって勃起したメニーのペニスが方位磁針として機能するなど、死体の身体は驚くべき「機能」を次々と発揮する。

ハンクは故郷を目指す旅の中で、メニーに「生きることの喜び」を伝えようと試みる。身近にある草木やゴミを利用して即興の芝居を作り、メニーがサラという女性と恋に落ちる物語を演じる。メニーはこの劇を真実と思い込み、愛するサラがいるハンクの故郷へ帰ることに一層意欲を燃やす。しかし、サラは実はハンクがバス停で毎日見かけるものの、声をかける勇気を持てずにいる片思いの女性の名前だった。ハンクは彼女の写真を密かに携帯の待ち受け画面に設定し、SNSで彼女が既婚者であることを知っても、その想いを断ち切れないでいた。

熊に襲われる危機一髪の状況を乗り越え、二人は遂にハンクの故郷へと辿り着く。しかし、彼が連れ帰ったのは言葉を話す「死体」であり、その異様な光景は故郷に大きな混乱を巻き起こすのだった。

キャスト

ハンク・トンプソン：ポール・ダノ（日本語吹替：平川大輔）
メニー：ダニエル・ラドクリフ（日本語吹替：小野賢章）
サラ・ジョンソン：メアリー・エリザベス・ウィンステッド（日本語吹替：岸本百恵）
プレストン：ティモシー・ユーリック（日本語吹替：陣谷遥）
* その他：リポーター、ハンクの父親、クリッシー（サラの娘）、警察官、カメラマン、検視官など

製作・公開・評価

本作は、監督であるダニエルズの頭に浮かんだ「おかしな映像」から着想を得て企画された。特に「メニーに乗ったハンクが海を駆けるシーン」がその出発点だったという。2015年6月に主要キャストが決定し、同年7月から8月にかけてカリフォルニア州サンペドロやハンボルト郡を中心に主要撮影が行われた。

ダニエル・ラドクリフは、撮影開始前に劇中音楽が作曲されており、音楽を聴きながら演じられたユニークな撮影体験を語っている。また、撮影の大部分をポール・ダノと二人きりで過ごしたことで、互いに頼り合い、友情を育むことができたと振り返っている。メニー役は基本的にラドクリフ自身が演じたが、一部スタントマンや人形も使用された。

劇伴音楽は、マンチェスター・オーケストラとしても活動するアンディ・ハルとロバート・マクダウェルが担当。一部の楽曲には主演のダノとラドクリフの声がフィーチャーされている。

2016年のサンダンス映画祭でのプレミアでは、その前衛的な内容に戸惑い、席を立つ観客もいたと報じられた。しかし、A24による配給決定後、全米で公開されると、評価は賛否が分かれたものの、概ね肯定的な意見が多かった。

批評集積サイトRotten Tomatoesでは支持率68%（180件のレビュー）、Metacriticでは加重平均64/100（36件のレビュー）を記録。「好感の持てる奇抜さ」や「実に見事な演技」が高く評価され、「勇気ある観客にカテゴライズ不可能な体験をさせる」作品と評された。

『バラエティ』誌は本作の不気味さを「勲章」と称賛。『ハリウッド・レポーター』誌はダノとラドクリフの演技における「魅力的までの熱心さ」や「痛ましい儚さ」を評価した。『ガーディアン』紙は「粗雑で馬鹿馬鹿しい」としつつも、二人の演技や音楽、編集によって「すこし感動的になる」と述べた。

日本の識者からも、「人のおならを他者との違いの表現に選んだ面白さ」「まさかおならで泣くとは！」といったユニークな視点や、「強烈にヘンな珍作だが、創意工夫に満ちたビジュアルと、ぬくもりと切なさと希望をたっぷり味わって欲しい」「シュールでブラックな笑いを散りばめながら、生きるとは何ぞや？を問いかける脚本は素晴らしく秀逸」といった評価が寄せられた。

本作は、2016年のサンダンス映画祭で米国ドラマ映画部門最優秀監督賞をダニエルズにもたらし、第49回シッチェス・カタロニア国際映画祭では主演男優賞と作品賞を受賞するなど、海外の映画祭でも高い評価を受けた。

日本公開時には、ラドクリフをかたどった「メニーくん」人形がプロモーションに活用されるなど、作品の世界観を活かしたユニークな展開が行われた。映倫区分はG指定となっている。

外部リンク

公式サイトや公式SNSアカウントなどが存在する。

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