スカウト (ロケット)

スカウトロケット

スカウト（Scout、Solid Controlled Orbital Utility Test system）は、主にアメリカ合衆国で開発・運用された小型人工衛星打ち上げ用の固体燃料ロケットです。1961年から1994年までの長期間にわたり活躍し、特に全段が固体燃料で構成された最初の、そして長らく唯一の多段式ロケットとして、宇宙開発の歴史に名を残しています。信頼性の高いシステム構築を目指し、開発にあたっては既存の軍用ハードウェアが積極的に採用されました。

開発とその背景

スカウトロケットの設計は、1957年に当時のアメリカ航空諮問委員会（NACA）ラングレー研究所で始まりました。1950年代後半に入ると、後継組織であるNASAは固体多段ロケットの開発計画としてスカウトプログラムを立ち上げます。この計画にはアメリカ空軍も参加しましたが、それぞれ異なる要求仕様を持っていました。

スカウトの主製造契約は、NASA向けの機体についてはLTV社が、空軍向けの機体（ブルー・スカウト）についてはFord Aeronautronics社が担当しました。

構造と構成要素

標準的なスカウトロケットは、4段構成の固体燃料ブースターシステムを採用していました。全長は約23メートル、打ち上げ時の総質量は約21,500キログラムでした。

その各段には、既存のミサイル技術を基にしたモーターが組み合わされていました。NASAの資料によれば、初期の第1段モーターは、ジュピターシニアとアメリカ海軍のポラリスミサイルを組み合わせたもの、第2段はアメリカ陸軍のMGM-29ミサイルから派生したものが使われました。第3段と第4段のモーターは、海軍のヴァンガードミサイルを基に、ラングレー研究所で独自に設計・開発されたものが採用されています。

スカウトAの主要諸元例

スカウトA型の概要は以下の通りです。

全長: 25.00 m
直径: 1.01 m
打上げ時質量: 17,850 kg
打上げ時推進力: 513.40 kN


NASAで用いられたスカウトの基本形は「スカウトX-1」として知られており、エアロジェットのアルゴルを第1段に、ATKランチ・システムズ・グループのXM33カストルを第2段に、ABLのX-254アンタレスを第3段に、ABLのX-248アルタイルを第4段に使用していました。

運用実績と打上げ衛星

スカウトロケットの最初の軌道投入成功は、1961年2月16日に行われました。この際に打ち上げられたのは、大気密度の研究を目的とした7kgの小型衛星「エクスプローラ9号」でした。スカウトによる最後の打ち上げは、1994年5月9日に「スカウトG-1」によって実施され、1998年まで運用された163kgの軍事衛星「MSTI-2」が軌道に乗せられました。

スカウトによって軌道に投入された主な衛星には、以下のようなものがあります。

サン・マルコ衛星群: イタリアが開発した人工衛星。1964年のサン・マルコ1号はイタリア初の自国衛星であり、1967年のサン・マルコ2号は世界初の海上プラットフォームからの打ち上げに成功しました。イタリアは1967年から1984年まで、スカウト専用の海上発射場「サン・マルコ・プラットフォーム」を運用していました。
AEROS: 大気研究を目的とした衛星。
アリエル3号: イギリスが設計・製造した最初の人工衛星を含むアリエル計画の一環。
マグサット: 地球磁場の最初の三次元マッピングを行った衛星。
トランシット: 試作機トランシット5Aを含む、アメリカ海軍の航行衛星システム。複数機がスカウトで打ち上げられました。
OFO-A: 1970年に生物学実験のため、ウシガエルを宇宙に運んだ衛星。

スカウトの改良型

スカウトロケットは運用期間中にいくつかの改良型が開発されました。

スカウトX-1: 最初の軌道打上げ成功機（1960年）。安定化翼とジャイロ誘導システムを備えていました。
スカウトX-2: 1962年導入。第3段のアンタレスIIBを改良し、初のDMSP衛星を打ち上げました。
スカウトX-3: 1963年導入。第1段のアルゴルIIAを改良。
スカウトA-1 / B-1: 1965年導入。それぞれ第2段カストルIIA、第4段アルタイルIIIを改良。
スカウトD-1: 1972年導入。第1段アルゴルIIIを改良。
スカウトG: 1974年から最終打上げまで運用された型。約210kgのペイロードを軌道に投入する能力がありました。

軍事プログラム：ブルー・スカウト

アメリカ空軍におけるスカウトプログラムは、HETS（Hyper Environmental Test System）またはシステム609Aとして知られ、打ち上げられたロケットは「ブルー・スカウト」と呼ばれました。空軍はNASAのスカウトとは異なる製造者と契約し、様々な段の組み合わせを持つブルー・スカウトシリーズを開発・運用しました。

ブルー・スカウトI (XRM-89): カストル2とアンタレス1Aを組み合わせた3段ロケットとして開発されました。1961年1月7日にほぼ成功した初打ち上げを行いましたが、搭載していた再突入カプセルの回収には至りませんでした。その後も失敗があり、この計画は1962年に終了しました。
ブルー・スカウトII (XRM-90): NASAのスカウトと同様の4段構成でしたが、外観にいくつかの違いがありました。1961年3月3日と4月12日の2回打ち上げられ、ヴァン・アレン帯の放射レベル測定などに成功しました。3機目はNASAによって「マーキュリー・スカウト1号」として1961年11月にマーキュリー計画のための通信衛星を打ち上げる試みに使われましたが、失敗に終わりました。これらの後、空軍はXRM-89とXRM-90の使用を段階的に廃止し、「RM-91/SLV-1Bブルー・スカウト・ジュニア」へと移行しました。

スカウトロケットは、その信頼性とコスト効率の良さから、小型衛星打上げの分野で重要な役割を果たしました。全段固体燃料という設計は、その後の小型ロケット開発にも影響を与えたと言えるでしょう。

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