スザンナと長老たち (アルテミジア・ジェンティレスキ、ブルノ)

『スザンナと長老たち』は、イタリア・バロック期の女性画家アルテミジア・ジェンティレスキによって1649年に制作された油彩画です。この作品は、彼女が手掛けた同主題の絵画の中でも特に重要な一点とされています。現在は、チェコ共和国のブルノにあるモラヴィア絵画館に所蔵されており、その右側の欄干には画家の署名と制作年が記されています。

この絵画は、『旧約聖書』の「ダニエル書」に記されたスザンナの物語を題材にしています。物語は、ある暑い日、ヨアキムの妻スザンナが自宅の泉で水浴びをしていたところ、隠れていた二人の長老に覗き見される場面から始まります。長老たちは以前からスザンナに欲望を抱いており、この機会に彼女を凌辱しようとしました。しかし、スザンナが彼らを拒絶すると、長老たちはその権力を利用してスザンナを不倫の罪で告発しました。最終的に、預言者ダニエルによってスザンナの無実が証明され、長老たちは死刑を宣告されるという物語です。

この作品は、アルテミジアが以前に描いた同主題の作品とは異なり、より伝統的な解釈に沿って描かれています。スザンナは長老たちを拒み、神の加護を求めるかのように天を見上げています。また、風景の描写も、他のアルテミジアの作品と比較して、より詳細に描かれている点が特徴的です。1953年から1954年にかけて行われた修復作業では、作品に大きな損傷と加筆があったことが判明し、修復が行われました。さらに、画面が上下左右に切断されていた事実も明らかになりました。

作品の来歴としては、1894年にブルノの産業資本家ハインリッヒ・ゴンペルツのコレクションに記録され、後にブルノ市に寄贈されました。以前は「カラッチ」という画家の作品として分類されていましたが、1953年から1954年の修復中に署名が発見されたことで、アルテミジア・ジェンティレスキの作品として再評価されました。

アルテミジア・ジェンティレスキは、このテーマで複数の作品を制作しており、それぞれ異なる表現でスザンナの物語を描いています。この作品は、彼女の芸術的才能と、物語に対する独自の解釈を示す重要な例と言えるでしょう。

参考文献として、大島力氏の著書『名画で読み解く「聖書」』や、R. Ward Bissell氏の『Artemisia Gentileschi and the authority of art』、Keith Christiansen氏の『Orazio and Artemisia Gentileschi』、Adelina Modesti氏の論文「A Newly Discovered Late Work by Artemisia Gentileschi: Susanna and the Elders of 1652」などが挙げられます。これらの文献は、アルテミジア・ジェンティレスキの生涯や作品を深く理解するための貴重な資料となります。

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