スザンナと長老たち (ジェンティレスキ、スタムフォード)

アルテミジア・ジェンティレスキの『スザンナと長老たち』

『スザンナと長老たち』は、17世紀バロック期のイタリア人女性画家、アルテミジア・ジェンティレスキによって描かれた油彩画です。この作品は、画家の署名と1622年の制作年が記されており、現在ではイングランドのバーグリー・ハウス・コレクションに所蔵されています。

スザンナの物語

この絵画は、『旧約聖書』の「ダニエル書」に登場するスザンナの物語を題材としています。物語では、裕福なヨアキムの妻であるスザンナが、自宅の泉で水浴びをしている際に、二人の長老に覗き見されます。長老たちはスザンナに欲望を抱き、彼女を誘惑しようとしますが、スザンナはこれを拒否します。怒った長老たちは、自分たちの地位を利用してスザンナを不倫の罪で訴えますが、預言者ダニエルの活躍によってスザンナの無実が証明され、長老たちは死刑を宣告されるという物語です。

絵画の詳細

ジェンティレスキの描くスザンナは、自然主義的なプロポーションで表現されており、水浴場の端に腰掛けています。彼女の背後には、壁に寄りかかり、身を乗り出して覗き込む二人の老人が描かれています。スザンナは、覗き見されていることに困惑しており、上目遣いの視線や、腕とシュミーズで身体を覆い隠そうとする様子から、その感情が伝わってきます。画面の左下の石壁には、「ARTEMITIA GENTILESCHI LOMI」と画家の署名が記されています。

スザンナのポーズは、古典的な『クニドスのアプロディーテー』のポーズを彷彿とさせます。この作品は、ジェンティレスキの初期の作品である1610年の同主題作と比べると、より伝統的なスタイルで描かれています。また、1610年の作品よりも風景が大きく描かれている点は、ボローニャ派の画家たちの影響を受けていると考えられます。ジェンティレスキはフィレンツェで独立した画家として活動した後、ローマに戻りこの作品を制作しましたが、当初はその様式からカラヴァッジョの作品と誤認されていました。

作品の来歴

この絵画は、ローマ教皇の甥であるルドヴィーコ・ルドヴィージによって委嘱された可能性があり、それがボローニャ派的な表現の理由であるかもしれません。1700年以降、この作品はエクセター侯爵家のコレクションに所蔵されており、その後、1763年のバーグリー・ハウスのコレクション目録に記載されています。おそらく、第9代エクセター伯爵がグランドツアー中に購入したと考えられています。

ジェンティレスキの他の同主題作

アルテミジア・ジェンティレスキは、スザンナの物語をテーマにした絵画を複数制作しており、他にもポンマースフェルデンの『スザンナと長老たち』 (1610年)、ブルノの『スザンナと長老たち』 (1649年)、ボローニャの『スザンナと長老たち』 (1652年)などが存在します。これらの作品を通して、彼女がこのテーマに強い関心を持っていたことがわかります。

まとめ

『スザンナと長老たち』は、ジェンティレスキの画風の変化や、同時代の芸術動向を知る上で重要な作品です。スザンナの無垢さと、欲望を抱く老人の対比が鮮やかに描かれており、見る者に強い印象を与えます。2020年には、ロンドンのナショナル・ギャラリーで開催されたジェンティレスキ展にも貸し出され、多くの人々の目に触れました。

この作品は、単なる宗教画としてだけでなく、女性の視点から描かれた物語としても評価されており、現在も多くの美術愛好家や研究者の関心を集めています。

もう一度検索