スザンナと長老たち (ルーベンス)

作品解説

ピーテル・パウル・ルーベンスの『スザンナと長老たち』は、旧約聖書の「ダニエル書補遺」に記されたスザンナの物語を題材にした作品です。この絵画は、ルーベンスがイタリア滞在中に制作した初期の作品の一つであり、彼のバロック様式への移行を示す重要な例と言えるでしょう。現在、ローマのボルゲーゼ美術館に所蔵されています。

主題

物語は、貞淑な妻であるスザンナが、自身の家の庭にある泉で水浴びをしていたところ、2人の長老に言い寄られる場面を描いています。長老たちはスザンナの美貌に惹かれ、彼女を脅して関係を迫りますが、スザンナは拒否します。腹を立てた長老たちはスザンナを姦淫の罪で告発し、彼女は死刑にされそうになります。しかし、神の力によってダニエルが現れ、長老たちの虚偽を暴き、スザンナを救います。長老たちは偽証の罪で処刑されます。

作品詳細

ルーベンスは、長老たちがスザンナに迫る瞬間を捉えています。スザンナは泉のそばに座り込んでおり、背後から現れた長老たちに驚愕しています。一人の長老はスザンナに向かって身をかがめ、人差し指を口の前に立てて静かにするように促しています。スザンナは背後の長老たちを見上げ、ショックと恐怖の入り混じった表情を浮かべています。しかし、同時に純粋さを象徴する白い衣服で身を隠そうとしています。

ルーベンスは、人物配置においてフランドルの伝統的な構図ではなく、16世紀イタリアで普及した、若い女性が襲撃者に対して背を向ける構図を採用しています。これにより、登場人物の倫理的な対比が強調されています。また、裸婦の表現においては、パオロ・ヴェロネーゼやティントレットなどの同主題の作品から影響を受けています。さらに、画面右側からの照明は、スザンナの裸体を際立たせ、カラヴァッジョやレオナルド・ダ・ヴィンチの影響を感じさせます。

泉に座る女性のポーズは、古代の銅像『棘を抜く少年』に基づいていると指摘されています。ルーベンスは、この少年像を素描しており、それが後の作品にも影響を与えています。スザンナのポーズは、背後を見上げることで躍動感が加えられています。

来歴

この作品は早い時期に枢機卿シピオーネ・ボルゲーゼのコレクションに加わったと考えられています。ルーベンスがローマ滞在中にシピオーネ枢機卿の依頼で制作したのか、あるいは後からコレクションに加わったのかは不明ですが、シピオーネ枢機卿がルーベンスに好意的であったことは知られています。1622年には、絵画の額縁の代金の支払いが記録されており、この時期にはボルゲーゼ・コレクションにあったことが確認できます。その後も、ボルゲーゼ・コレクションの目録にルーベンスの作品として記載されています。

複製

スウェーデン国立美術館には、ルーベンス自身による複製が所蔵されています。この複製には署名と日付が記されています。

影響

イギリスの美術史家マイケル・ジャフィによると、スザンナの身振りや身体のひねりは、後に彫刻家ジャン・ロレンツォ・ベルニーニに影響を与え、彼の作品『プロセルピナの略奪』の着想源になったとされています。

この作品は、ルーベンスの初期の傑作であるだけでなく、後のバロック美術にも影響を与えた重要な作品と言えるでしょう。

まとめ

『スザンナと長老たち』は、ルーベンスの初期の作品でありながら、彼の才能が十分に発揮された傑作です。聖書の物語を題材にしつつも、ルーベンス独自の解釈と表現によって、見る者を魅了します。その劇的な構図、鮮やかな色彩、そして登場人物の心理描写は、バロック美術の魅力を余すところなく伝えています。

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