スタディオ・デッレ・アルピ

スタディオ・デッレ・アルピ：トリノの記憶と遺産

スタディオ・デッレ・アルピは、イタリアのトリノに位置していた多目的スタジアムでした。その名前は「アルプスのスタジアム」を意味し、雄大なアルプス山脈を背景に、1990年から2009年までユヴェントスFCとトリノFCという、トリノを代表する2つのサッカークラブのホームスタジアムとして使用されました。

歴史と背景

1990年のイタリアワールドカップ開催に合わせて建設されたデッレ・アルピは、当時としては最新鋭の施設を備えていました。しかし、建設時の条件として総合運動場とする必要があったため、陸上トラックが併設されました。このトラックが、後の様々な問題を引き起こす要因の一つとなります。収容人数は67,229人と、当時としては大規模なスタジアムでした。

問題点

デッレ・アルピは、その規模にもかかわらず、常に満員になることはありませんでした。平日開催やコッパ・イタリアの試合では、観客席が閑散としている光景がしばしば見られました。その背景には、以下のような要因が挙げられます。

立地の悪さ: トリノの中心部から離れた郊外に位置していたため、公共交通機関のアクセスが悪く、観客はスタジアムへの移動に不便を感じていました。
治安の問題: 周辺地域の治安が決して良いとは言えず、特に夜間の試合では、観客の安全に対する懸念がありました。
観戦のしづらさ: 陸上トラックがピッチと観客席の間に存在したため、ピッチまでの距離が遠く、臨場感に欠けるという意見が多くありました。スタジアム自体の規模が大きすぎたことも、一体感を損なう要因となりました。
ピッチコンディション: ピッチの水はけが悪く、濃霧が発生しやすい気候条件も重なり、芝の生育が困難でした。そのため、ピッチコンディションは常に最悪の状態であり、選手のプレーにも悪影響を及ぼしていました。

これらの問題点から、ユヴェントスFCは新スタジアムの建設を模索し始めます。

新スタジアム建設への道のり

ユヴェントスは、スタジアムの所有者であるトリノ市との間で、長年にわたる協議を重ねました。そして2000年、ついに合意に達し、デッレ・アルピは99年間のユーベの所有（登記上）となりました。維持費や改装費はユーベ側が全額負担する代わりに、スタジアムの自由な利用と、そこから得られる利益が保証されました。この合意には、スタジアム周辺の広大な土地も含まれていました。

この合意に基づき、ユヴェントスはデッレ・アルピを取り壊し、新たにサッカー専用スタジアムを建設することを決定しました。新スタジアムの収容人数は、約4万1千人と、デッレ・アルピよりも大幅に減少しましたが、観戦のしやすさを最優先に設計されました。また、将来的な増築も考慮されていました。

その後

2004年に新スタジアムの建設計画が発表され、2006年に工事が開始されました。当初は2年後の完成を予定していましたが、カルチョ・スキャンダルの影響でユヴェントスの資金繰りが悪化し、計画は一時頓挫しました。しかし、2008年に約1億ユーロを投じて工事が再開され、2011-12シーズンに、現在のユヴェントス・スタジアムが完成しました。

デッレ・アルピの解体後、ユヴェントスは新スタジアムが完成するまでの間、かつてのホームスタジアムであったスタディオ・オリンピコ・ディ・トリノを使用していました。

主な大会・試合

デッレ・アルピでは、1990 FIFAワールドカップなどの主要な大会が開催されました。

平均入場者数

以下は、デッレ・アルピにおけるユヴェントスFCとトリノFCの平均入場者数です。

2005-2006: 30,469 (セリエA) / 24,995 (セリエB)
2004-2005: 26,429 (セリエA) / 10,003 (セリエB)
2003-2004: 34,365 (セリエA) / 9,831 (セリエB)
2002-2003: 39,771 (セリエA) / 14,870 (セリエA)
2001-2002: 40,687 (セリエA) / 19,002 (セリエA)
2000-2001: 41,273 (セリエA) / 17,077 (セリエB)
1999-2000: 42,229 (セリエA) / 21,857 (セリエA)
1998-1999: 47,164 (セリエA) / 19,627 (セリエB)
1997-1998: 47,347 (セリエA) / 19,505 (セリエB)
1996-1997: 39,271 (セリエA) / 13,451 (セリエB)
1995-1996: 41,946 (セリエA) / 20,284 (セリエA)
1994-1995: 47,866 (セリエA) / 22,205 (セリエA)
1993-1994: 44,520 (セリエA) / 26,130 (セリエA)
1992-1993: 45,868 (セリエA) / 26,814 (セリエA)
1991-1992: 51,832 (セリエA) / 35,364 (セリエA)
1990-1991: 43,114 (セリエA) / 33,990 (セリエA)

結論

スタディオ・デッレ・アルピは、その短い歴史の中で、様々な課題を抱えたスタジアムでした。しかし、ユヴェントスFCとトリノFCという2つのクラブのホームとして、多くの人々に記憶されています。その跡地に建設されたユヴェントス・スタジアムは、デッレ・アルピの教訓を生かし、より快適で、より一体感のあるスタジアムとして、新たな歴史を刻んでいます。

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