スタンレー・ミルグラム

スタンレー・ミルグラム（Stanley Milgram、1933年 8月15日 - 1984年 12月20日）は、20世紀後半に活動したアメリカ合衆国の社会心理学者です。イェール大学やニューヨーク市立大学大学院センターで教鞭を執り、人間の社会行動、特に権威に対する反応や社会的なつながりの構造に関する画期的な研究で知られています。

主な業績

ミルグラムの研究で最も有名なのは、権威ある人物からの指示に対して人々がどれだけ服従するかを検証した「ミルグラム実験」です。この実験は、第二次世界大戦中のホロコーストのような悲劇がなぜ起こり得たのかという問いに答えるための一つの試みとして行われました。また、彼は「六次の隔たり」（世界中の誰もが平均して約6人の知人を介して繋がっているという概念）の基礎となった「スモール・ワールド現象」に関する先駆的な研究でも知られています。

生涯

スタンレー・ミルグラムは1933年、ニューヨークのブロンクス区でユダヤ系の両親のもとに生まれました。彼はジェームズ・モンロー高校で学び、後にスタンフォード監獄実験で有名になる心理学者のフィリップ・ジンバルドーと同級生でした。学部課程はニューヨークのクイーンズカレッジに進みましたが、当初は心理学を専攻せず、1954年に政治学で学士号を取得しました。その後、ハーバード大学で社会科学分野の博士課程に進みますが、心理学の専門的訓練を受けていないことを指摘され、短期間の心理学コースを受講しました。彼は1960年にハーバード大学でPh.D.を取得しました。ハーバードでは、ソロモン・アッシュやゴードン・オールポートといった著名な研究者から大きな影響を受け、特にアッシュは彼の博士論文の指導教官を務めました。ミルグラムはその後、イェール大学などで研究と教育活動を行い、その成果は広く社会に影響を与えました。彼は1984年、51歳の若さで故郷ニューヨークで心臓発作により亡くなりました。

2004年には、彼の生涯と業績に関するトーマス・ブラスによる伝記が、『服従実験とは何だったのか　スタンレー・ミルグラムの生涯と遺産』として出版されています。

権威への服従実験

ミルグラムが権威への服従実験を行った主な動機は、ユダヤ人として、ホロコーストにおいて多くの人々が非人道的な命令に服従したメカニズムを心理学的に解明することでした。この実験の結果は、1963年に「異常心理学・社会心理学ジャーナル」に「服従の行動研究」というタイトルで発表され、大きな論争を巻き起こしました。被験者の心理的負担や実験の倫理性に関する疑念から、アメリカ心理学会（APA）は一時期、彼の入会申請を保留しました。しかし、1974年にその詳細と考察をまとめた著書『権威に対する服従』（邦訳『服従の心理』）を出版すると、その社会心理学への貢献が認められ、同年にアメリカ科学振興協会から社会心理学賞を受賞しました。ミルグラムは、この服従のモデルを、ベトナム戦争中のソンミ村虐殺事件のような、権威構造下で発生する残虐行為の理解にも応用できると示唆しました。彼の実験はその後も様々な形で言及され、1976年にはテレビ映画『レベル10』、1979年にはフランスの政治スリラー映画、2015年には伝記映画『アイヒマンの後継者ミルグラム博士の恐るべき告発』など、多くのメディア作品に影響を与えています。また、イギリスの音楽グループMidgetが、実験に触発された同名のアルバム「ミルグラム・エクスペリメント」を2001年に発表しています。

スモール・ワールド現象

「六次の隔たり」として広く知られる概念は、スタンレー・ミルグラムが1967年に行った「スモール・ワールド実験」に端を発しています。この実験では、ミルグラムは無作為に選ばれた人々に手紙を送り、特定の目標人物へ知人のネットワークを介して転送してもらうよう依頼しました。その結果、手紙が平均して約6ステップで目標人物に到達することが明らかになり、世界中の人々が意外と短い繋がりで結ばれていることを示しました。この先駆的な研究は、現代のソーシャル・ネットワーキング・サービス（SNS）における人々のつながりを理解する上でも重要な基礎概念となっています。

主要著作

Milgram, S. (1974). Obedience to Authority: An Experimental View.
Milgram, S. (1977). The Individual in a Social World: Essays and Experiments.

スタンレー・ミルグラム