スターバト・マーテル (ロッシーニ)

ロッシーニ『スターバト・マーテル』：傑作宗教音楽の光と影

ジョアキーノ・ロッシーニ作曲の『スターバト・マーテル』は、1841年に完成し、1842年にパリで初演され、聴衆を熱狂させた声楽作品です。ロッシーニがオペラ作曲から引退後、数少ない作品の一つとして知られています。全10曲からなり、演奏時間は約60分です。

作曲の経緯：依頼から完成まで

1831年、ロッシーニはスペインのマドリードで、聖職者のフランシスコ・フェルナンデス・バレラからスターバト・マーテルの作曲を依頼されます。当時、ペルゴレージの『スターバト・マーテル』が人気を博しており、ロッシーニは乗り気ではありませんでしたが、依頼を引き受けました。しかし、現行版の第1曲と第5-9曲のみを作曲し、残りの6曲はジョヴァンニ・タドリーニに代作を依頼しました。この合作版は1833年に初演されましたが、ロッシーニ自身は聴くことがありませんでした。

その後、依頼者のバレラの死後、楽譜が出版されたことを知ったロッシーニは、自作でない部分があることを憂慮し、全曲を自力で完成させることを決意します。そして、1841年末までに全10曲からなる新しい版を完成させました。

1842年1月7日、パリのイタリア劇場で初演されたこの作品は、聴衆から熱狂的な歓迎を受け、その年のうちにヨーロッパ29都市で上演されるほどの成功を収めました。イタリア初演は同年3月にボローニャで行われ、ドニゼッティが指揮を務めました。

音楽的特徴と評価

『スターバト・マーテル』は、初演当時から人気を博し、今日でも演奏されています。しかし、その一方で「オペラ的」であるという批判も存在します。これは、旋律が豊かで外向的なため、宗教曲としての真摯さを欠くというものです。しかし、楽曲の構成やオーケストレーションはオペラとは異なり、この批判は必ずしも当たらないという意見もあります。

また、歌詞の意味を無視しているという批判もありますが、楽曲の美しさ、ドラマティックな表現力は多くの人々を魅了し続けています。

楽曲構成と編成

『スターバト・マーテル』は、以下の10曲で構成されています。

1. Stabat mater dolorosa（悲しみに沈める聖母は涙にむせびて）
2. Cujus animam（嘆き憂い悲しめるその御魂は）
3. Quis est homo（キリストの御母のかく悩み給えるを見て）
4. Pro peccatis（聖母は、イエスが人々の罪のため）
5. Eja, Mater（慈しみの泉なる御母よ）
6. Sancta Mater（ああ聖母よ）
7. Fac ut portem（われキリストの死をおわしめ）
8. Inflammatus（聖なる処女よ）
9. Quando corpus morietur（肉体は死して朽つるとも）
10. In sempiterna saecula. Amen（アーメン）

編成は、ソプラノ2人、テノール、バスの四重唱、混声四部合唱、そして管弦楽（フルート2、オーボエ2、クラリネット2、ファゴット2、ホルン4、トランペット2、トロンボーン3、ティンパニ、弦5部）となっています。

第2曲「Cujus animam」は、テノールのアリアとして特に有名で、しばしば単独で演奏されます。

まとめ

ロッシーニの『スターバト・マーテル』は、宗教音楽でありながら、オペラ的な要素も持ち合わせた、ドラマティックで美しい作品です。その評価は分かれることもありますが、多くの人々に感動を与え続けている傑作であることは間違いありません。

もう一度検索