スターリング・ポンド紙幣

スターリング・ポンド紙幣：発行権と歴史

イギリスの通貨であるスターリング・ポンド（￡）の紙幣は、イギリス、その王室属領、一部の海外領土で使用されています。しかし、他の多くの国々の中央銀行が紙幣発行権を独占しているのとは異なり、イギリスではイングランド銀行に加え、スコットランドの3行と北アイルランドの4行（うち2行はアイルランド共和国に本店を置く）の計7行の商業銀行も紙幣発行権を有しています。この特異な制度は、香港ドルと同様の仕組みと言えるでしょう。

歴史的背景：ピール銀行条例と紙幣発行権

19世紀半ばまでは、イングランド銀行のみならず、イギリスの多くの商業銀行もイングランド銀行券と交換可能な独自の紙幣を発行していました。しかし、産業革命による経済発展と貿易拡大により、イングランド銀行券の価値を担保する金の不足が深刻な問題となりました。これは、金本位制下で海外からの輸入増加に対応するため、大量の金が国外に流出したことによるものです。

この事態を受け、金準備高を超える紙幣発行はインフレーションを招くと主張する通貨学派が台頭し、大きな影響力を持つようになりました。その結果、1844年には、イングランド銀行に紙幣発行権を独占させるピール銀行条例が議会で成立しました。

これにより、商業銀行の紙幣発行権は段階的に廃止され、イングランドとウェールズでは1921年に完全に終了しました。しかし、スコットランドと北アイルランドの銀行については、地域経済への影響を考慮し、紙幣発行権が維持されることとなり、現在に至っています。この例外的な扱いは、それぞれの地域における銀行システムの独自性と歴史的経緯を反映していると言えるでしょう。

ポンド紙幣発行銀行一覧

現在、スターリング・ポンド紙幣を発行できる銀行は以下の通りです。

イングランドおよびウェールズ

イングランド銀行（ロンドン）

スコットランド

スコットランド銀行（エディンバラ） - ロイズ・バンキング・グループ系列
ロイヤルバンク・オブ・スコットランド（エディンバラ）
クライズデール銀行（グラスゴー）

北アイルランド

アイルランド銀行（ダブリン）
ノーザン銀行（ベルファスト） - ダンスケ銀行（デンマーク）系列
* アルスター銀行（ダブリン） - ロイヤルバンク・オブ・スコットランド系列

ファースト・トラスト銀行（ベルファスト）は、2020年6月に紙幣発行を終了しています。

このように、イギリスのポンド紙幣発行システムは、歴史的な経緯と地域的な特殊性を反映した、世界的に見ても非常に珍しい制度となっています。イングランド銀行による中央管理と、スコットランド・北アイルランドの商業銀行による発行権の併存は、イギリス金融史における特筆すべき特徴と言えるでしょう。

結論

イギリスのスターリング・ポンド紙幣発行システムは、中央銀行と地方銀行が発行権を共有する複雑な仕組みです。このシステムは、歴史的な経緯と地域的な要因が複雑に絡み合った結果であり、現代の金融システムを考える上で重要な事例となっています。ピール銀行条例以降の変遷、金本位制からの脱却といった歴史的文脈を理解することで、現在のイギリス経済におけるポンド紙幣の役割と意義をより深く理解することができるでしょう。

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