ステア

ステア（stir）は、元来「軽くかき混ぜる」という意味を持つ言葉ですが、バーテンダーの間では、カクテルを作る際の特定の技法を指す言葉として用いられます。

具体的には、ミキシンググラスにカクテルの材料となるリキュールやジュース、スピリッツなどを入れ、そこに氷を加えて、バー・スプーンと呼ばれる柄の長いスプーンで静かに、そして優しくかき混ぜることをステアと呼びます。この工程を経ることで、材料同士が均一に混ざり合い、カクテル全体が適度に冷却されます。

ステアの技術が特に重要となるのは、シェイク（shake）という別の技法を用いた場合に、カクテルが濁ってしまう可能性がある場合です。シェイクは、材料と氷をシェーカーと呼ばれる容器に入れて激しく振ることで、急激に冷却し、材料を混ぜ合わせる技法ですが、この際に氷が砕け、カクテルに混ざってしまうことがあります。また、シェイクは材料に空気を含ませるため、カクテルが泡立ち、口当たりがまろやかになるという効果もありますが、一方で、濁りの原因となることもあります。

ステアは、シェイクとは対照的に、カクテルをクリアに仕上げたい場合に適しています。例えば、マティーニやマンハッタンといった、透明感のあるカクテルを作る際には、ステアが用いられることが一般的です。ステアによって、材料の風味が損なわれることなく、洗練された味わいを引き出すことができます。

ステアを行う際には、いくつかの注意点があります。まず、バー・スプーンの背をミキシンググラスの内側に沿わせるようにして、静かに、そして一定の速度でかき混ぜることが重要です。これにより、氷が過度に溶けるのを防ぎ、カクテルの味が薄まるのを防ぐことができます。また、かき混ぜる時間も重要であり、一般的には20回程度が目安とされていますが、材料や氷の状態によって調整する必要があります。

ステアされたカクテルは、ストレーナーと呼ばれる器具を使って、氷が入らないようにグラスに注ぎます。ストレーナーには、ジュレップ・ストレーナーやホーソン・ストレーナーなど、様々な種類があり、カクテルの種類やバーテンダーの好みによって使い分けられます。

英語のstirの発音は[stə́r]であり、カタカナ表記では「スター」となる場合がありますが、カクテルの世界では一般的に「ステア」という言葉が用いられています。ちなみに、「ステア」と発音が似ている英語には、stare [stéər]（じっと見る）やsteer[stɪər]（～を操縦する）などがあります。

ステアは、単にかき混ぜるというだけでなく、カクテルの味わいを左右する重要な技術です。バーテンダーは、それぞれのカクテルに最適なステアの方法を熟知し、その技術を駆使して、最高のカクテルを提供しています。

関連語句として、液体を混ぜる意味で使われる攪拌（かくはん）、実験などで液体を攪拌する際に使用されるマグネチックスターラーなどが挙げられます。

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