スティーヴ・ビンダー

スティーヴ・ビンダー：革新的なテレビプロデューサー、ディレクター

スティーヴ・ビンダーは、アメリカのテレビ業界で数々の画期的な番組を手掛けたプロデューサー兼ディレクターです。1960年代初頭からそのキャリアをスタートさせ、『T.A.M.I. Show』などの映画監督、音楽番組『Hullabaloo』の制作に関わることで成功を収めました。特に、多様な人種やエスニシティの出演者を起用し、幅広い音楽ジャンルを扱う番組作りは、当時のテレビ業界に大きな影響を与えました。

ビンダーの名を有名にしたのは、ドキュメンタリー映画『T.A.M.I. Show』や、エルヴィス・プレスリーの復活を印象付けたテレビ番組『ELVIS: 68カムバック・スペシャル』、ダイアナ・ロスのセントラルパークコンサートなどです。一方で、『Star Wars Holiday Special』のように、議論を呼んだ作品も手掛けています。ペトゥラ・クラークやエルヴィス・プレスリーだけでなく、スティーヴ・アレン、チェビー・チェイス、パティ・ラベル、バリー・マニロウなど、多くの著名なアーティストと番組を制作しました。

駆け出しの頃

22歳のとき、ビンダーはロサンゼルスのKABC-TVに入社しました。最初は郵便係として働いていましたが、すぐにディレクターに転身。パイ投げで有名な『Soupy Sales Show』を担当し、全国放送版も手掛けました。その後、フリーランスとして、スティーヴ・アレンの音楽番組でディレクターを務めながら、音楽ドキュメンタリー映画『T.A.M.I. Show』の監督にも挑戦しました。1964年に公開されたこの映画には、ジェームス・ブラウン、マーヴィン・ゲイ、スプリームスといったソウル系のアーティストから、ザ・ビーチ・ボーイズ、ローリング・ストーンズなどのロックバンドまで、多様なジャンルのアーティストが出演しています。ロサンゼルス・タイムズは、この映画を「あらゆるロック映画の最高峰を競う秀作」と評しました。

ペトゥラ・クラークのテレビ特番

1968年、ビンダーがNBCで働いていたとき、ペトゥラ・クラークを主演にした特別番組が企画されました。番組内で、クラークが黒人歌手ハリー・ベラフォンテとデュエットした際、ベラフォンテの腕に触れるシーンがありました。このシーンが、番組スポンサーであったクライスラーを困惑させました。当時、人種混交が議論を呼んでいたアメリカ南部では、そのシーンが視聴者の反感を招くのではないかと懸念したのです。クライスラーは問題のシーンをカットするように主張しましたが、ビンダーは、クラークや彼女の夫であるプロデューサーと共に拒否し、そのシーンを含んだ形で番組を完成させました。1968年4月8日に放送された番組は高視聴率を記録し、人種の異なる男女が直接触れ合う初めてのテレビ番組として、その革新性が高く評価されました。

ELVIS: 68カムバック・スペシャル

NBCの幹部であるボブ・フィンケルは、エルヴィス・プレスリーの番組を制作するプロデューサー兼ディレクターを探していました。ペトゥラ・クラークの特番をめぐる騒動を知ったフィンケルは、ビンダーの反骨精神がプレスリーにふさわしいと考えました。当初、ビンダーはプレスリーの番組制作を断ろうとしましたが、プレスリーのアルバムに録音技師として参加したことのあるボーンズ・ハウに説得され、プレスリーに会ってみることにしました。会見の際、ビンダーはプレスリーに率直な意見を述べ、「あなたのキャリアは今、トイレに入っているんじゃないですか」と答えたと言われています。ビンダーとプレスリーは、この特別番組の制作にはためらいがありましたが、ビンダーは「それなら、あなたはレコードを作ればいい、私がそれに映像をつける」と言いました。プレスリーのマネージャーであるパーカー大佐は、番組に対して明確な構想を持っていましたが、ビンダーは彼の意向に従わず、1950年代のエルヴィスを再現しようとしました。ビンダーは、パーカーの反対を押し切って、スコティ・ムーアとD・J・フォンタナとのギグを実現させ、プレスリーが黒い革の衣装に身を包み、反逆児のイメージを再現した映像を制作しました。この番組は、プレスリーのカムバックを大いに印象づけるものとなりました。また、ビンダーは、プレスリーを街に連れ出し、ほとんどの人が彼に気づかないという現実を見せ、プレスリーの疑念を払拭しました。サミュエル・ロイによれば、ビンダーはプレスリーに危険な環境や取り巻きに警告しようとしたものの、プレスリーは真剣に受け止めなかったそうです。プレスリーのマネージャーであるパーカー大佐は、自分に従わないビンダーを嫌い、グレイスランドへの電話を取り次がないように命じたそうです。2008年には、番組の制作から40周年を記念して、スティーヴ・ビンダーは回顧録『'68 At 40: Retrospective』を出版しました。

スター・ウォーズ・ホリデイ・スペシャル

『Star Wars Holiday Special』は、CBSでプライムタイムに放送された2時間の特別番組です。オリジナルのキャストに加え、アート・カーニーやビアトリス・アーサーなどが出演しました。しかし、この番組はスター・ウォーズの世界観と伝統的なバラエティ番組の要素がうまく融合せず、スター・ウォーズファンからも一般視聴者からも批判を浴びました。『What Were They Thinking?: The 100 Dumbest Events in Television History』の著者デヴィッド・ホフスティードは、この番組を「テレビ史上最悪の2時間」と酷評しました。

演じた人物

2005年のCBSのミニシリーズ『Elvis』では、ジャック・ノーズワージーがビンダーを演じました。2022年公開の映画『エルヴィス』では、デイカー・モンゴメリーがビンダーを演じました。

スティーヴ・ビンダーは、常に革新的なテレビ番組を追求し、その姿勢は後のクリエイターたちに大きな影響を与えました。

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