ストバイオス

ストバイオスのヨハンネスとその『選文集』：古代ギリシア文明の遺産

ストバイオスのヨハンネス（5世紀頃）は、東ローマ帝国初期を代表する著述家の一人です。彼の名声は、主に『選文集』（Anthology、別名『抜粋集』など）の編纂者として知られています。この書物は、古代ギリシアの膨大な文献から厳選された抜粋集であり、西洋古典学の研究において極めて重要な役割を担っています。

謎に包まれた生涯

ヨハンネスの生涯については、残念ながら詳しいことは分かっていません。彼の名前から、マケドニアの都市ストボイ出身であることは推測されます。「ストバイオス」という名は、この出身地に由来する通称だと考えられています。確かなことは、彼が息子セプティミウスの教育のために『選文集』を編纂したという事実だけです。この事実から、ヨハンネスが教育者としての側面も持っていたことが伺えます。

貴重な文献集『選文集』

『選文集』は全4巻からなる大作です。日本語では『選文集』の他に、『抜粋集』『精華集』『精華文集』『詞華集』など、複数の訳語が存在します。ラテン語では、前半2巻を『Eclogae』、後半2巻を『Florilegium』と呼んでおり、日本語ではそれぞれ『自然学選集』『倫理選集』、あるいは『自然学抜粋集』『倫理学抜粋集』と訳されることもあります。

この書物の最大の特徴は、500人を超える様々な著者の著作からの抜粋を網羅している点です。抜粋された文献は、文学、哲学、歴史、弁論術、医学など多岐に渡ります。特筆すべきは、哲学に関する抜粋が学説史の研究においても貴重な資料となっていることです。古代ギリシアの哲学者たちの思想を知る上で、『選文集』は不可欠な情報源となっています。また、ローマ帝国期の文献は比較的少なく、キリスト教関連の文献もほとんど含まれていないことも、この書物の特徴の一つです。

後世への影響と現代へのアクセス

『選文集』は、ビザンティン時代の学者フォティオスによって『ビブリオテーケー』の中で紹介されており、その存在が広く知られるようになりました。最初の印刷版は、16世紀にアントウェルペンのプランタン印刷所から出版されました。その後、様々な学者によって校訂・翻訳が繰り返され、現代においても研究対象として活用されています。

特に、Thomas Gaisford（1822-1824年）、August Meineke（1855年）、Curtius WachsmuthとOtto Hense（1884-1923年）による版が有名です。彼らの尽力により、現代の研究者たちがこの貴重な文献にアクセスできるようになりました。デジタル化も進み、電子版も入手可能となっており、古代ギリシア文明研究の進展に貢献しています。

まとめ

ストバイオスのヨハンネスは、その生涯は謎に包まれていますが、『選文集』という、比類なき古代ギリシア文献の宝庫を後世に残しました。この書物は、失われた文献の断片を多く含むため、現代の研究者にとって非常に重要な資料となっています。古代ギリシア文明の理解を深める上で、『選文集』はこれからも重要な役割を果たし続けるでしょう。

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