ストリート・オブ・ファイヤー

ストリート・オブ・ファイヤー：ネオノワールなロックンロール・エンターテイメント

1984年、ウォルター・ヒル監督が手掛けた『ストリート・オブ・ファイヤー』は、西部劇的な様式とロックンロールのエネルギーを見事に融合させた、他に類を見ないアクション映画です。50年代のアメリカンカルチャーと80年代のファッション、社会風俗が独特の雰囲気を醸し出し、シカゴを舞台に繰り広げられる物語は、観客をその世界へと引き込みます。

あらすじ：人気歌手の誘拐と、兄弟の絆、そして愛

人気ロック歌手エレン・エイムが、地元での凱旋ライブ中にストリートギャング「ボンバーズ」に拉致される事件が発生します。彼女の熱狂的なファンであるリーヴァは、弟のトムに助けを求め、エレンのマネージャー、ビリーもトムに協力を申し出ます。

トムは偶然出会った元軍人のマッコイと共に、危険なボンバーズのアジトへと潜入。激しい戦闘を繰り広げ、エレンを救出します。トムとエレンはかつて恋人同士でしたが、エレンの歌手としての道を尊重し、別れていました。再会した二人は、過去の感情がよみがえりますが、トムの行動に誤解が生じ、一時的に離れてしまいます。しかし、トムの真意を知ったエレンは、再び彼への想いを確かめます。

一方、面目を失ったボンバーズのボス、レイヴェンは、街への襲撃を計画します。トムはレイヴェンとの壮絶な決闘に挑み、勝利します。レイヴェンの敗北と住民たちの抵抗によって、ボンバーズは撤退し、街に平和が戻ります。

エレンはトムとの復縁を望みますが、トムは彼女の「付き人」にはなれないと告げ、二人はそれぞれの道を歩むことを選びます。エレンのステージを見守るトムとマッコイは、静かに街を後にします。

キャストとスタッフ：実力派と新星が集結

マイケル・パレ、ダイアン・レインら、個性豊かなキャストが映画の世界観を彩ります。監督は『48時間』でも知られるウォルター・ヒル、音楽はライ・クーダーと、錚々たるスタッフ陣が作品を支えています。特に、劇中歌はジム・スタインマンが手掛け、ローリー・サージェントやホリー・シャーウッドらによる歌唱は、映画の雰囲気を盛り上げています。ダイアン・レイン本人も歌唱に意欲を示していたものの、最終的には複数ボーカリストによるレコーディングと電子的な合成処理が施されています。

日本の音楽シーンにも影響を与え、「今夜は青春」は日本のTVドラマ『ヤヌスの鏡』の主題歌として椎名恵がカバーしヒットを記録しています。「ノーホエア・ファースト」は宝塚歌劇団の花組公演でも使用されました。

製作秘話：スプリングスティーンとの交渉から、撮影の工夫まで

映画のタイトルはブルース・スプリングスティーンの曲から取られる予定でしたが、権利問題で変更を余儀なくされました。当初エンディングを飾る予定だったスプリングスティーンの曲は、別のアーティストによる再録版が提示されたことで使用許可が取り消され、ジム・スタインマンが新たな楽曲を提供しました。

撮影は、シカゴやロサンゼルスで行われ、夜のシーンは日中に撮影され、巨大な暗幕を使って「人工の夜」を作り出すという工夫が凝らされています。これは夜間撮影のコストを抑えるための創意工夫でした。

また、キャスティングにおいても、監督は比較的無名な若手俳優を起用したいと考えていました。トム・コーディ役には、トム・クルーズらも候補に挙がっていたそうです。エレン・エイム役のダイアン・レインは、監督の当初の予想よりも若かったものの、彼女の情熱とオーディションでのパフォーマンスによって、役を射止めました。

興行成績と評価：日本での大ヒットと、続編の可能性

アメリカでの興行収入は振るいませんでしたが、日本では大ヒットとなり、『キネマ旬報』の読者選出外国映画ベスト・テンで第1位を獲得するなど、高い評価を得ています。

当初は三部作として企画されていたものの、興行成績の不振やスタッフの移動により、続編は制作されませんでした。しかし、2008年には非公式の続編『ロード・トゥ・ヘル』が制作され、マイケル・パレが再びトム・コーディ役を演じています。

『ストリート・オブ・ファイヤー』は、その独特の世界観、音楽、そしてストーリーによって、今も多くのファンを魅了し続ける、80年代を代表するアクション映画と言えるでしょう。

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