ストルパー＝サミュエルソンの定理

ストルパー＝サミュエルソンの定理（Stolper–Samuelson theorem）

ストルパー＝サミュエルソンの定理は、特定の条件において、一つの財の相対価格が上昇すると、それに対する生産要素の相対価格も変動するという理論を示しています。この理論は、1941年にウォルフガング・ストルパーとポール・サミュエルソンによって提唱され、現代経済学における重要な概念となっています。

概要

この定理は、完全競争のもとで、ある財の相対価格が上昇すると、その財の生産に多く用いられる生産要素の相対価格が上昇し、逆に別の生産要素の相対価格が下がることを示します。教科書では、よく「資本」と「労働」という二つの生産要素に関して説明されますが、実際には「熟練労働」と「非熟練労働」のように、その他の組み合わせを考慮することも可能です。

ロナルド・ジョーンズとジョゼ・シェイクマンは、ストルパーとサミュエルソンの示した定理がより一般的な条件下でも成り立つことを示しました。特に「貿易が始まると、その国に豊富な生産要素の相対価格が上昇し、希少な生産要素の相対価格が低下する」という系も重要な結果として挙げられます。これにより、貿易によって国際的な生産要素の価格が均等化されるとする要素価格均等化定理との関連性も強調されます。

実証的妥当性

近年、ストルパー・サミュエルソンの定理に関する実証研究が数多く行われています。特に1990年代から2000年代初頭にかけての研究では、特定の国、例えばチリやメキシコ、ブラジルなどを対象にしたケーススタディが実施されており、原則としてこの定理は支持されています。たとえば、ロバート・フィーンストラとゴードン・ハンソンは、アメリカとメキシコ間の貿易が増加する過程で、熟練労働の相対価格が上昇する様子を発見しました。この結果は、ストルパー・サミュエルソンの定理とは異なる側面を持っていますが、オフショアリングの観点からこの現象を理解することができます。

一方で、近年の研究においては、ストルパー・サミュエルソンの定理に異議を唱える意見も出てきています。たとえば、ドナルド・デービスとプラチ・ミシュラは、ラテンアメリカが労働豊富な国であることを考えると、貿易自由化によって賃金が上昇すべきだと主張しました。しかし、実際にはこれらの国々で賃金が低下したという現実が、定理が現在の経済状況にどのように適用されるかを再考させる要因となっています。

現代的解釈

最近の研究者たち、特にリチャード・ボールドウィンとリカード・フォースリッドは、労働だけでなく、企業の資本も考慮に入れたモデルを提案し、貿易自由化が賃金や資本のリターンに与える影響を探っています。彼らは、ストルパー・サミュエルソンの定理に似た結果が得られることを確認しました。

これにより、中国からの製造品の輸入が、製造業における男性労働者の相対賃金を低下させていることや、輸出国において男性労働者の相対賃金が上昇することが一因であるとされ、現代の経済状況を理解する上での重要な指針となっています。ストルパー＝サミュエルソンの定理は、今日の国際貿易のあり方やその影響を考察する上で外せない理論の一つであると言えるでしょう。

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