完全競争

完全競争：価格受容者たちの市場

完全競争とは、市場における経済主体、つまり企業や消費者が、市場価格に影響を与えることなく、価格を所与として行動することを前提とした市場構造です。これは、新古典派[[経済学]]における重要な仮定であり、数多くの経済学モデルの基礎となっています。

価格受容者（プライス・テイカー）

完全競争下では、個々の企業や消費者は、市場全体の取引量に比べて、自らの取引量が非常に小さいため、価格に影響を与えることができません。そのため、彼らは市場で決定された価格をそのまま受け入れるしかありません。このような経済主体は、価格受容者（プライス・テイカー）と呼ばれます。価格決定権は市場全体に委ねられ、個々の主体は価格を操作することはできません。

完全競争の条件

完全競争が成立するためには、いくつかの条件が満たされている必要があります。これらの条件は、現実の市場では完全に満たされることは稀であり、あくまで理想的なモデルとして考えられています。主な条件としては以下が挙げられます。

多数の売買参加者: 市場には多数の企業と消費者が存在し、いずれも市場取引量に与える影響が小さい。
均質な財・サービス: 市場で取引される財やサービスは、完全に同一で差別化されていない。
自由な参入・退出: 企業は自由に市場へ参入・退出できる。新規参入や撤退に障壁はない。
完全な情報: 全ての経済主体が市場価格、製品情報、技術情報など、あらゆる情報を完全に把握している。
取引コストの不存在: 取引を行う際に、時間や費用などのコストは一切かからない。

完全競争と厚生経済学

完全競争は、厚生経済学において重要な役割を果たします。厚生経済学の基本定理は、完全競争市場においては、市場メカニズムによってパレート効率的な資源配分が実現されることを示しています。パレート効率性とは、ある経済状態において、誰かの状況を悪くすることなく、誰かの状況を改善することが不可能な状態のことを指します。

しかし、現実の市場では完全競争の条件が満たされることはほとんどありません。多くの市場は、独占、寡占、独占的競争など、様々な市場構造を示しています。これらの不完全競争市場では、市場メカニズムが必ずしもパレート効率的な資源配分を達成するとは限りません。

完全競争とその他の市場構造

完全競争は、市場構造を分析するための基準点として用いられます。現実の市場は完全競争とは異なる様々な構造を示すため、それらを完全競争と比較することで、市場の効率性や競争の度合いを評価することができます。完全競争以外の主な市場構造としては、以下のようなものがあります。

独占: 市場に一つの企業しか存在しない状態
複占: 市場に二つの企業しか存在しない状態
寡占: 市場に少数の企業しか存在しない状態
不完全競争: 完全競争の条件を満たさない市場の総称
独占的競争: 類似した製品を提供する多数の企業が存在する市場

結論

完全競争は、理想的な市場構造モデルとして、経済学の様々な分野で利用されています。現実の市場は完全競争とは程遠いものの、完全競争モデルを理解することで、市場メカニズムの機能や市場構造の違いによる経済的影響をより深く理解することができます。様々な市場構造を理解し、比較検討することで、より現実的な経済分析を行うことが可能になります。

参考文献

奥野正寛『ミクロ[[経済学]]』東京大学出版会、2008年
奥野正寛; 鈴村興太郎『ミクロ[[経済学]]（第一巻）』第一、岩波書店〈岩波モダン・エコノミックス〉、1985年
神取道宏 著「ゲーム理論による経済学の静かな革命」、岩井克人; 伊藤元重 編『現代の経済理論』東京大学出版会、1994年
神取道宏『ミクロ[[経済学]]の力』日本評論社、2014年
* 武隈慎一『数理[[経済学]]』新世社〈新経済学ライブラリ（25）〉、2001年

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