ストーム (岡林信康のアルバム)

1980年10月21日、インビテーションおよびビクターからリリースされた『ストーム』は、岡林信康のディスコグラフィーにおいて独特な輝きを放つアルバムです。本作は、長年にわたり交流のあった加藤和彦と、初めて本格的な共同制作を行った記念碑的な作品として知られています。

アルバム制作の契機となったのは、岡林自身が渡英しロンドンで過ごした経験でした。当時のロンドン音楽シーンを席巻していたニュー・ウェーヴやパンクのエネルギー、そして革新的なサウンドに触発された岡林は、自身の音楽に新たな息吹を吹き込むことを決意します。かねてより加藤和彦が持つ都会的で洗練された音楽性に共感していた岡林は、この新たな衝動を加藤のサウンドで表現したいと考えました。具体的なイメージとしては、加藤が安井かずみと制作したアルバム『うたかたのオペラ』のような雰囲気を伝え、アレンジについては全幅の信頼を置いて加藤に一任しました。

加藤和彦はプロデュースと編曲を担い、バックバンドには当時最先端の音楽を志向していたムーンライダーズ（鈴木慶一を除くメンバー）を指名。彼らの演奏は、岡林の楽曲にクールかつタイトなグルーヴと、実験的なテクスチャーをもたらしました。アルバム発表後に行われたコンサートツアーも、ムーンライダーズを帯同して行われ、そのサウンドをライブでも忠実に再現しました。

しかし、アルバム『ストーム』は発表当時、世間一般からは必ずしも十分な評価を得られませんでした。フォークシンガー、あるいはメッセージ色の強いシンガーソングライターとしてのイメージが強かった岡林信康にとって、この大胆なサウンドへの接近は、当時のリスナーには少々唐突に映ったのかもしれません。

時は流れ、このアルバムがCDとして復刻される以前のこと、岡林自身が何十年かぶりに本作を聴き返す機会がありました。その時、初めて聴いた時とは全く異なる深い感動に打たれたといいます。この胸に迫る思いと、加藤和彦への感謝の念を伝えるため、岡林は長年連絡を取っていなかった加藤に電話をかけました。突然の電話に加藤は驚きつつも、岡林の感動を聞くと「そうだよ、あれはいいアルバムなんだよ」と繰り返し語ったそうです。このエピソードは、制作者たちが抱いていた作品への確信と、時を経て作品の価値が改めて認識された瞬間を示しています。

岡林信康自身、『ストーム』を「西洋的なロックをコピーするやり方の最終到達点のような作品」と語っており、自身の音楽探求における重要なマイルストーンとして位置づけています。

アルバムは全曲が岡林信康による作詞・作曲、加藤和彦による編曲で構成されています。

収録曲

Side A
霧のHighway (6:12)
ダンスマン (4:13)
イエ!イエ! (3:22)
Little View (2:30)
ニトロ・ブギ (3:51)
Side B
ミス・ベンリー (4:11)
DORAKU LADY (3:30) - この曲は当初メジャーコードで作曲されたが、加藤和彦の提案でマイナーコードに変更された。その結果、楽曲に奥行きと面白さが生まれ、岡林は改めて加藤の非凡な才能を感じたという。
遮光カーテンの貴婦人 (4:36)
STORM (7:59)

レコーディング参加ミュージシャン

唄: 岡林信康
ギター: 加藤和彦
エレキギター: 白井良明（ムーンライダーズ）
キーボード: 岡田徹（ムーンライダーズ）
エレクトリック・ベース: 鈴木博文（ムーンライダーズ）
ドラム: 橿淵哲郎（ムーンライダーズ）
バイオリン、ギター: 武川雅寛（ムーンライダーズ）

制作スタッフ

A.D.: 長友啓典
デザイナー: 土屋直久
写真撮影: ヒロ伊藤
録音・リミックス: 梅津達男
ディレクター: 高垣健
プロデュース: 加藤和彦
* リミックススタジオ: 一口坂スタジオ

『ストーム』は、フォーク、ロックといった既存のジャンルに収まらない、先鋭的かつ実験的なサウンドプロダクションが特徴であり、日本の音楽史において再評価されるべき隠れた名盤と言えるでしょう。

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