スネクマ M53

スネクマ M53 ターボファンエンジン：ミラージュ2000シリーズの心臓部

M53は、フランスのスネクマ（現サフラン）社が開発したターボファンエンジンであり、主にダッソー ミラージュ2000シリーズ戦闘機に搭載されています。ミラージュ2000は、世界8か国の空軍で運用されており、M53はその信頼性と性能により、長年にわたりシリーズを支え続けています。

設計思想

M53は、前身のアター9C/9Kエンジンをベースに、1軸式の基本構造を維持しつつ、各部を新設計しています。1970年代当時、同世代の戦闘機エンジンが2軸式を採用する中で、M53はあえてシンプルな1軸式を採用しました。2軸式はメンテナンスが複雑になる一方、モジュール化による整備性の向上が期待できます。M53は、可変式の静翼を廃するなど、徹底したシンプルさを追求し、パイロットにとって扱いやすいエンジンに仕上がっています。

シリーズ展開

M53には、様々な派生型が存在します。

M53: 最初の試作機は1970年に製造され、各種試験を経て性能が確認されました。
M53-2: ミラージュF1、ミラージュ4000、ミラージュ2000の試作機に搭載されました。
M53-5: ミラージュ2000Cの初期型に搭載された改良型です。
M53-P2: ミラージュ2000N（核兵器運用能力を持つ戦略爆撃機型）や、ミラージュ2000C後期型、ミラージュ2000-5に搭載されました。M53シリーズの中では最も多く生産され、2005年まで生産が続けられました。
M53-P20: M53-P2の改良型で、推力向上を目指しましたが、生産には至りませんでした。
M53-PX3: 総保有コスト(TCO)削減を目的とした改良型です。タービン入口温度を下げることで部品寿命を延ばしつつ、推力向上と軽量化も図られました。ラファール戦闘機に搭載されているM88エンジンの技術も一部導入されています。

構造と特徴

M53は、12個のモジュールで構成されています。主要な構成要素は以下の通りです。

低圧圧縮機: 3段軸流式で、ファンとしても機能します。圧縮後の空気の一部はバイパスされ、残りが高圧圧縮機へ送られます。
高圧圧縮機: 5段軸流式で、静翼の角度は固定されています。チタン合金製で、高温に耐える設計となっています。
燃焼器: アンニュラー型を採用し、排煙を抑制する設計となっています。耐熱合金で作られ、空気と燃料で冷却されます。
タービン: 2段軸流式で、翼内部を空気で冷却します。耐熱合金を使用し、高温の燃焼ガスに耐えます。
アフターバーナー: 3段の環状構造で、燃料を噴射して推力を増大させます。燃料噴射環は空気で冷却されます。

M53は[FADEC]によって制御され、最適なエンジン性能を発揮します。

スペック（M53-P2）

種類: アフターバーナー付き1軸式ターボファンエンジン
全長: 5,070mm
直径: 796mm（インレット）
重量: 1,515kg
圧縮機: 8段軸流式（低圧3段、高圧5段）
バイパス比: 0.36:1
タービン: 2段軸流式
推力:
ミリタリー推力: 64kN
アフターバーナー使用時: 95kN
推力重量比: 6.4:1
圧縮比: 9.8:1
燃費: 0.90 lb/(lbf•h) (ミリタリー推力時)

搭載機

M53は、主にミラージュ2000シリーズに搭載されています。ミラージュ4000にも搭載されましたが、同機は試作機のみで開発が中止されました。

まとめ

M53は、1軸式という比較的シンプルな構造ながら、高い信頼性と性能を持つターボファンエンジンです。ミラージュ2000シリーズの主力エンジンとして、長年にわたり各国の空軍で運用されています。その設計思想と技術は、後の航空エンジン開発にも影響を与えました。

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