スノー・キャンペーン

スノー・キャンペーン：アメリカ独立戦争初期の南部戦線

スノー・キャンペーンは、アメリカ独立戦争開戦直後の1775年冬に、サウスカロライナ植民地で展開された大規模な軍事作戦です。この作戦は、愛国派民兵がロイヤリストの勢力を一掃し、南部の戦況を大きく左右する転換点となりました。特に、激しい降雪の中での行軍が「スノー・キャンペーン」という名前の由来となっています。

背景：南部における対立

1775年4月、マサチューセッツでアメリカ独立戦争が勃発すると、サウスカロライナ植民地では住民が二分されました。沿岸部ではイギリス系住民を中心に中立または反乱支持の立場が多く、一方、内陸部ではドイツ系やスコットランド系の移民を中心に、反乱に反対するロイヤリストが勢力を拡大していました。

ロイヤリストの指導者として活動していたのがトマス・フレッチオールです。彼は、イギリス王室と議会への抵抗を訴える愛国派に対抗し、積極的に活動していました。両陣営は民兵組織を立ち上げ、植民地内での緊張が高まっていました。当初は散発的な暴力事件が起きていましたが、火薬の支配を巡る対立が深刻化し、事態は悪化していきました。

植民地安全委員会は、ウィリアム・ヘンリー・ドレイトンとウィリアム・テネント牧師をナインティシックスに派遣し、内陸部での愛国派支援を強化するとともに、ロイヤリスト勢力の抑制を図りました。ドレイトンはフレッチオールとの交渉で一時的な休戦を取り付けましたが、根本的な対立は解消されませんでした。

9月15日、愛国派民兵がチャールストン港のジョンソン砦を占拠すると、事態はさらに緊迫化しました。植民地総督ウィリアム・キャンベルは議会を解散し、イギリス海軍の艦船に逃げ込みました。これを受けて、安全委員会が植民地の首都を掌握し、港湾防衛を強化しました。

10月には、ロイヤリストがチェロキー族への火薬と弾薬の輸送を妨害する事件が発生し、安全委員会は大規模な軍事行動を開始しました。11月8日、リチャード・リチャードソン大佐が民兵を率いてロイヤリストの鎮圧と物資の回収に向かうことが決定しました。

ナインティシックス包囲戦

リチャードソンがチャールストンで部隊を編成している間、内陸部ではアンドリュー・ウィリアムソンが火薬強奪事件を知り、560名の兵を率いて11月19日にナインティシックスに到着しました。ウィリアムソンは、防御に適さないと判断したナインティシックスの町ではなく、ジョン・サベージのプランテーションに宿営を設営しました。そこには、即席の防御柵と3門の旋回砲が備え付けられていました。

一方、ロイヤリストはパトリック・カニンガム大尉とジョセフ・ロビンソン少佐の指揮下、1900名の大部隊をナインティシックスに進軍させていました。愛国派は出撃を避け、翌日にはロイヤリスト軍に包囲される事態となりました。

包囲中、両軍の間で交渉が行われましたが、愛国派民兵2名が捕縛されたことをきっかけに、2時間にわたる砲撃戦が始まりました。しかし、双方の損害は軽微でした。2日間の包囲の後、愛国派は旋回砲を明け渡す代わりに撤退を認めさせ、包囲戦は終結しました。旋回砲は後に返還されました。

ロイヤリスト掃討作戦

リチャードソン大佐は、1000名の部隊を率いて内陸部への行軍を開始しました。11月27日までにコンガリー川に到着し、数日滞在して川を渡り、民兵を集めました。出発時、部隊は1500名にまで膨れ上がっていました。

12月2日までに、サルーダ川とブロード川の間のダッチフォーク地域に到着し、さらに民兵を吸収しました。ダッチフォークでは、エバン・マクローレンの家を拠点に、数人のロイヤリスト士官を捕獲しました。これにより、ロイヤリスト部隊は指揮系統を失い、脱走兵が相次ぎました。残りの民兵は、チェロキー族の領域に後退しました。

リチャードソン大佐は、ロイヤリスト士官の逮捕と盗まれた弾薬の返還を要求する声明を発表し、軍を進めました。この時、部隊は2500名にまで膨れ上がっていました。12月12日、リチャードソンは部隊が3000名に達したと報告しました。洞窟に隠れていたフレッチオールを含む数人のロイヤリスト指導者を捕らえ、フレッチオールの農園からキャンベル知事の書簡を発見しました。

エノリー川では、リチャードソンの民兵隊にウィリアムソンの部隊が合流し、さらにノースカロライナからの部隊も加わり、総勢4000から5000名にまで拡大しました。これらの部隊は内陸部を捜索し、リーディ川沿いでロイヤリストの宿営地を発見しました。リチャードソンはウィリアム・トンプソンに1300名の兵を与え、この宿営地を攻撃させました。

12月22日、トンプソン隊はロイヤリストの宿営地を急襲し、兵士を捕虜にし、物資、武器、弾薬を奪いました。トンプソンは部隊を統制し、虐殺を阻止しました。ロイヤリストは5,6名が死亡し、トンプソン隊は1名が負傷しました。

雪の中の撤退

12月23日、愛国派の部隊が海岸に向かって帰還を開始したとき、雪が降り始めました。愛国派は雪への備えが十分でなかったため、帰還は非常に困難を極めました。リチャードソンの部隊は解散し、多くの民兵は故郷へと帰りました。この作戦で捕らえられた捕虜136名は、1776年1月2日に護衛付きでチャールストンに送られました。

スノー・キャンペーン後の影響

キャンベル知事は、タマー艦上で生活を続けていました。３隻目の艦船が到着後、ジョンソン砦への攻撃を計画しましたが、愛国派が港湾防衛を強化していたため、イギリス艦隊は1776年1月にチャールストンを離れました。

その後、ヘンリー・クリントン将軍率いるイギリス軍が1776年6月にチャールストン港のサリバン島を攻撃しましたが、失敗に終わりました。この失敗により、1778年後半まで、イギリス軍による南部での大規模な作戦は行われませんでした。

スノー・キャンペーンの結果、内陸部でのロイヤリストの大規模な活動は終息しました。捕虜となったロイヤリストの多くは、愛国派の「内陸部同胞への融和政策」の一環として釈放されました。一方で、ロイヤリスト指導者の中には逃亡に成功した者もいました。その一人、トマス・ブラウンは東フロリダに逃亡し、ジョージアとフロリダの国境でゲリラ部隊を率いました。

ブラウンのジョージアとサウスカロライナ奪回作戦は、1778年から1780年にかけてイギリス軍によって実行されることになります。

スノー・キャンペーンは、アメリカ独立戦争における南部の戦局を大きく動かした重要な作戦でした。愛国派の勝利は、その後の南部戦線に大きな影響を与えました。

参考文献
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