スペンサー家

スペンサー家は、長きにわたりイギリスの歴史に関わってきた名門貴族の家系です。その起源は意外にも質素なものでしたが、代々の努力によって富と名声、そして爵位を獲得し、現代に至るまでその影響力を保っています。現在、イギリス国内で爵位を保持しているスペンサー家の分家としては、マールバラ公爵家、スペンサー伯爵家、そしてチャーチル男爵家が存在します。

歴史的背景

スペンサー家の物語は、15世紀末頃の牧畜業から始まります。元来、彼らは羊飼いとして生計を立てていましたが、勤勉な働きによって徐々に財産を蓄積していきました。その蓄財を元に、1508年にはウォリックシャー州にあるオールソープの荘園を購入します。この土地の獲得は、スペンサー家が単なる羊飼いから地主階級へと昇り詰める上で重要な一歩となりました。

16世紀に入ると、スペンサー家はさらなる発展を遂げます。荘園経営で成功を収め、財力を背景に社会的な地位を高めていきました。この時代には、一族の中からナイト爵に叙される者や、議会の下院議員（庶民院議員）、さらには地方行政の長官（州長官）を務める者などが多数輩出されるようになります。こうして、スペンサー家は貴族ではないものの、平民階級における有数の名門としての地位を確立しました。

貴族への昇進

スペンサー家が正式に貴族の列に加わったのは、17世紀初頭のことです。1603年、ロバート・スペンサーはイングランド国王ジェームズ1世によって「スペンサー男爵」に叙されました。これを機に、スペンサー家は貴族としての歴史を歩み始めます。

ロバート・スペンサーの孫である第3代スペンサー男爵ヘンリー・スペンサーは、さらなる高みへと到達します。国王チャールズ1世に仕えた彼は、1643年に「サンダーランド伯爵」の爵位を与えられました。しかし、ヘンリーはその年、イングランド内戦の最中に国王派として戦い、命を落としてしまいます。彼の死後、家督を継いだ息子の第2代サンダーランド伯ロバート・スペンサーは、後にオラニエ公ウィリアム（後のウィリアム3世）に重用され、政治の中枢で活躍しました。

ロバートの息子、第3代サンダーランド伯チャールズ・スペンサーは、初代マールバラ公ジョン・チャーチルとその妻サラ・ジェニングスの娘アンと結婚しました。この結婚は、スペンサー家と当時のイギリスを代表する英雄であるマールバラ公爵家を結びつける重要なものでした。チャールズ自身もホイッグ党の主要メンバーとして、時には第一大蔵卿（現在の首相に相当する役職）を務めるなど、政治の舞台で大きな影響力を行使しました。

マールバラ公爵家の継承と分家

第3代サンダーランド伯チャールズとアン夫妻の子供である第5代サンダーランド伯チャールズ・スペンサーは、歴史的な出来事によって更なる高位の爵位を継承することになります。それは、チャーチル家の男系が絶えた後、母アンを通じて第3代マールバラ公爵位を継いだことでした。

以降、スペンサー本家はサンダーランド伯爵位と共にマールバラ公爵位を世襲していきます。第5代マールバラ公爵ジョージ・スペンサーの時代、1817年には、先祖であるチャーチル家の名跡を称え、「スペンサー＝チャーチル」という複合姓を名乗るようになりました。近代イギリス史における最も有名な人物の一人、第二次世界大戦中の首相として知られるウィンストン・スペンサー＝チャーチルは、このスペンサー＝チャーチル家の一員であり、第7代マールバラ公爵ジョン・スペンサー＝チャーチルの三男ランドルフ・スペンサー＝チャーチル卿の息子にあたります。

一方、スペンサー家の分家も生まれます。第3代サンダーランド伯チャールズの次男であるジョン・スペンサーの子、ジョン・スペンサーは、1765年に「スペンサー伯爵」の爵位を与えられました。このスペンサー伯爵家は、マールバラ公爵家の分家として現在まで続いています。1981年に当時のチャールズ皇太子と結婚し、後に「ダイアナ元妃」として世界的に知られることになったダイアナ・スペンサーは、このスペンサー伯爵家の第8代当主エドワード・スペンサー伯爵の三女です。

さらに別の分家として、第4代マールバラ公爵ジョージ・スペンサーの次男フランシス・スペンサーは、1815年に「チャーチル男爵」に叙されました。これにより、マールバラ公爵家から派生したもう一つの貴族家が誕生します。チャーチル男爵家の第3代当主ヴィクター・スペンサーは、1902年にはさらに「チャーチル子爵」の爵位を得ましたが、この子爵位は2017年に廃絶しています。しかし、チャーチル男爵位そのものは今日まで維持されています。

現在

このように、スペンサー家は幾つかの系統に分かれながらも、マールバラ公爵家、スペンサー伯爵家、チャーチル男爵家として現在もイギリス貴族の一角を占めています。その歴史は、羊飼いから始まり、平民の名門を経て、公爵や伯爵といった高位の爵位にまで昇り詰めた、まさにイギリス社会における立身出世の物語と言えるでしょう。そして、ダイアナ元妃やウィンストン・チャーチルといった歴史に名を刻んだ人物を輩出した家系として、その名は広く知られています。

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