羊飼い

羊飼いとは

羊飼い（shepherd）は、羊を保護し、飼育し、放牧する労働者です。英語の「shepherd」は「sheep herder（羊の牧畜民）」を短縮した言葉で、人類最古の職業の一つとも言われています。

羊飼いの起源

羊飼いの職業は、約5000年前のアナトリア半島で始まりました。羊は、乳、肉、そして羊毛を得るために飼育され、その需要とともに羊飼いの仕事はユーラシア全域に広がりました。考古学者のアンリ・フライシュは、レバノンのベッカー高原における遊牧民の羊飼いを、最初の文化の一つと考えています。

羊飼いの仕事

少数の羊であれば牧場で飼育できますが、大量の羊を飼育するには、牧草地を求めて移動する必要があります。羊飼いの主な仕事は、肉食動物から羊を保護し、羊毛を刈る時期には市場へ移動させることです。昔は、羊の乳を搾ってチーズを作るのも羊飼いの仕事でした。これらの伝統は、現在でも一部の羊飼いに受け継がれています。

羊飼いの社会における役割

多くの社会では、羊飼いは経済活動に関わる職業として認識されていました。農民とは異なり、他人の羊の面倒を見て賃金を得ることもありました。しかし、遊牧生活のため社会から離れて暮らすことが多く、独身男性の仕事とされることもありました。そのため、新しい羊飼いは外部から募集する必要がありました。多くの場合、土地を継ぐことのできない農民の子どもたちがこの職に就きました。一方で、家族を持って地域社会とともに暮らす羊飼いもいました。彼らは、子どもや老人など、比較的負担の少ない労働力を活用していました。

羊飼いは通常、グループで行動し、大きな群れを管理するか、またはそれぞれが管理する群れを共同で管理していました。多くの場合、羊と一緒に小屋に住み、地域社会から食料を調達していました。また、荷車に寝泊まりして、群れとともに移動する羊飼いもいました。

羊飼いの発展

羊飼いは、特定の地域で発展しました。低地や川の渓谷では、穀物を栽培する方が効率的であったため、羊の飼育は山岳地域に限定されました。中東、ギリシャ、ピレネー山脈、カルパチア山脈、スコットランドなどが、羊飼いが発展した代表的な地域です。

シェパーズ・クルーク（羊飼いの杖）

羊は、山岳地帯など、農業に適さない場所の牧草を食べることができます。そのため、季節ごとに山岳ルートに沿って家畜追いの道（ドロヴァーズロード）が形成されました。シェパーズ・クルークは、山道でのバランスを取るため、捕食動物から羊を守るための武器として、また危険な下草を調べるために使われます。フック部分は、転倒した羊の首や足を引っ掛け、群れに戻すための補助としても使用されます。

このような理由から、シェパーズ・クルークは、困難な状況にある信徒を助けるシンボルとして、ミトラ教の神父やキリスト教の司教が持つ司教杖に取り入れられました。

羊飼いの道具と技術

東ヨーロッパでは、斧と組み合わせた羊飼いの斧が使用されていました。棒高跳びの起源は、羊飼いが川や柵を越える際に杖を使ったことにあると言われています。カナリア諸島では、槍のような杖を使って移動する「サルト・デル・パストール」（羊飼いのジャンプ）という伝統的な競技があります。

羊飼いと宗教

エジプト神話に登場するオシリス神は、片手にヘカと呼ばれるシェパーズ・クルークを持っています。キリスト教では、イエス・キリストを「善き羊飼い」、信者を「迷える羊」とたとえ、司教杖はシェパーズ・クルークをモチーフとしています。羊飼いは、動植物に関する豊富な知識を持っているため、ルーマニアなどでは治癒者や魔術師として尊敬を集めています。

羊飼いと芸術

俗世とかけ離れた牧歌的な環境で生きる羊飼いは、アルカディアの住人として、芸術のテーマとして頻繁に用いられてきました。羊飼いを「田舎」の象徴として理想化した「パストラル」というジャンルは、テオクリトスの『牧歌』から始まり、数々の名作を生み出しました。

有名な羊飼い

アベル：旧約聖書『創世記』に登場するアダムとイブの息子。
モーセ：旧約聖書に登場する預言者。
ダビデ：旧約聖書に登場する古代イスラエルの王。
パリス：英雄叙事詩『イーリアス』に登場する英雄。
ロームルス：ローマの建国神話に登場する建国王。
ブクル：ブカレストの建設者。

参考文献

[参考文献一覧は省略]

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