スマートフォン依存症

スマートフォン 依存症（スマホ依存症）

スマートフォン依存症、または略してスマホ依存症とは、スマートフォンを使用することが習慣化し、その利用によって生活に様々な支障が生じているにもかかわらず、使用を中断したり制限したりすることが困難になる精神的な状態を指します。これは一種の依存症と見なされています。

概要と実態

この状態に陥った人々は、一日の多くの時間をスマートフォンの操作に費やすようになります。その結果、本来行うべき仕事や学業、家事といったタスクを後回しにし、優先順位がスマートフォンに偏ってしまうことが見られます。こうした習慣は、深刻な悪影響をもたらす可能性があります。

具体的には、スマートフォンの長時間使用は睡眠時間を削り、心身のストレスや不安を増大させます。また、うつ病を発症するリスクを高める因子ともなり得ます。さらに、長時間うつむいた姿勢で画面を見続けることは、首や肩の凝り、眼精疲労（VDT症候群、IT眼症とも関連）など、身体的な不調を引き起こす原因となります。より深刻なケースでは、対人関係が疎かになり、健全な社会生活を送ることが困難になる人も少なくありません。歩行中にスマートフォンから目を離せない「歩きスマホ」によって、自身や周囲の人を巻き込む事故を起こす事例も報告されています。

過去の携帯電話（フィーチャーフォン、ガラケー）でも同様の問題は指摘されていましたが、多機能で常に新しい情報や刺激を提供し続けるスマートフォンの特性は、その利用頻度や時間を一層増加させ、依存状態に陥りやすい傾向があると考えられています。

依存に陥りやすい背景と原因

スマートフォン、特にソーシャル・ネットワーキング・サービス（SNS）への依存には、複数の要因が絡み合っています。

一つは、承認欲求です。SNS上での「いいね！」やコメントといった反応は、ユーザーの自己肯定感を刺激し、他者からの承認を得たいという欲求を満たすための強力なインセンティブとなります。ある調査では、SNS利用者の過半数が「他人から認めてもらわなければならない」という意識を持って投稿していることが示されています。Facebookの「いいね！」機能開発者の一人であるジャスティン・ローゼンスタイン氏は、SNSの依存性がヘロインに匹敵する可能性があると述べ、自らの利用を制限するに至ったと言われています。また、2019年のInstagramの社内資料では、Instagramが10代の女子の精神衛生に悪影響を及ぼし、自殺率を高める要因となっている可能性が示唆されています。

もう一つの大きな理由は、人間の新しい情報を探求しようとする本能にあります。生存や進化の過程で、新しい環境情報を敏感に察知する能力を持つ個体は有利でした。スマートフォンは通知機能や多様なアプリを通じて、常に新しい情報やエンターテインメントへのアクセスを提供します。これにより、人間のこの本能が刺激され続け、脳の報酬系が活性化されることで、一種の中毒状態が形成されやすくなります。

さらに、多くのインターネットサービスやゲームは、ユーザーの注意を引きつけ、利用時間を最大化するビジネスモデルに基づいています。利用時間が増えるほど広告収入などが向上するため、企業はユーザーをより強く引きつけ、依存性を高めるような機能やコンテンツを意図的に設計・開発する傾向が見られます。これは計画的陳腐化ならぬ「計画的依存促進」とも言える側面です。

医学博士で臨床精神医学を専門とする中山秀紀氏は、スマートフォンへの依存は主に「欲求が満たされない時間の苦痛」を我慢できないことに起因すると分析しています。楽しいゲームなどの「欲求が満たされる」だけなら他のことに集中できますが、満たされない欲求による苦痛を避けるために、手軽に欲求を満たせるスマートフォンに頼ってしまうのです。

また、元々ゲーム依存症の傾向がある人が、そのプレイツールとしてスマートフォンを長時間利用している場合も、スマホ依存症として顕在化することがあります。

社会的な影響と認識

スマートフォンの普及はコミュニケーションの方法を大きく変えましたが、弊害も指摘されています。例えば、SNSでの顔が見えない文字ベースのコミュニケーションに偏ることで、相手の表情や仕草から感情を読み取る能力、すなわち他者への共感力（心の理論）が十分に育まれない可能性が懸念されています。

スウェーデンの精神科医アンデシュ・ハンセンは、スマートフォンが脳に与える影響について著書『スマホ脳』で詳しく解説し、日本でも2021年にベストセラーとなりました。彼は、テクノロジー業界のリーダーであるスティーブ・ジョブズやビル・ゲイツが、デジタルツールの子供への影響を認識し、自らの子供に使用制限を設けていたという主張も展開しています。これは、開発者自身がその潜在的なリスクを理解していたことを示唆しています。

スマートフォン依存症は、個人の健康や生活の質だけでなく、社会全体におけるコミュニケーション能力の変化や事故の増加など、多岐にわたる影響を及ぼしており、現代社会が向き合うべき課題の一つとなっています。

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