スミルナ十字軍

スミルナ十字軍：14世紀の小アジアにおけるキリスト教とイスラムの衝突

スミルナ十字軍は、14世紀に小アジア沿岸で勢力を拡大していたトルコ系のアイドゥン侯国に対し、教皇クレメンス6世が主導して行われた軍事遠征です。この十字軍は、エーゲ海のキリスト教徒の海上交通路を保護し、スミルナを奪還することを目的としていました。2度にわたる遠征は、一時的な成功を収めたものの、最終的にはキリスト教勢力によるスミルナの維持は叶いませんでした。

十字軍提唱の背景

エーゲ海におけるトルコ海賊の活動は、キリスト教国の海運にとって深刻な脅威でした。教皇ヨハネス22世とベネディクトゥス12世は、すでに艦隊を派遣して対策を講じていましたが、クレメンス6世はより大規模な軍事行動を計画しました。彼はヴェネツィアの支援を得て、コンスタンティノープル総主教エンリコ・ダスティにトルコに対抗する同盟を結成するよう依頼しました。キプロス王ユーグ4世や聖ヨハネ騎士団もこの同盟に加わり、1342年、教皇はヴェネツィアに軍事支援を要請し、十字軍参加者には免罪符を与えることを発表しました。

第一次スミルナ十字軍（1343年 - 1345年）

十字軍は、パレンの戦いでの勝利を皮切りに、1344年10月にはスミルナへの攻撃を開始し、港と要塞を占領することに成功しました。しかし、アクロポリスの占領には至りませんでした。1345年1月、総主教エンリコ・ダスティが教会でミサを執り行っていた際、トルコ軍の奇襲を受け、彼自身を含む多くの十字軍指導者が殺害されるという悲劇に見舞われました。この事件は、十字軍に大きな打撃を与えました。

第二次スミルナ十字軍（1345年 - 1351年）

第一次十字軍の状況を受けて、教皇は1345年に第二次遠征を組織しました。ヴィエノワのドーファン・アンベール2世の指揮のもと、ヴェネツィアから出発した十字軍は、1346年2月にミティリーニでトルコ軍に勝利しましたが、スミルナではキリスト教徒地区の要塞化に留まりました。その後、クレメンス6世はトルコ軍との停戦交渉に尽力しましたが、トルコ軍はスミルナを包囲し続けました。1351年、クレメンス6世が突然十字軍への関心を失ったことで、十字軍は教皇の支援を失い、孤立しました。しかし、スミルナはその後もキリスト教徒によって支配され続け、1402年にティムール朝によって包囲、陥落するまでその状態が続きました。

スミルナ十字軍の意義

スミルナ十字軍は、キリスト教世界がエーゲ海の安全を確保し、イスラム勢力の拡大を阻止しようとした試みの一つでした。しかし、指導者の死、内部の対立、そして教皇の関心低下など、多くの困難に直面し、最終的にはその目的を達成することができませんでした。この十字軍は、中世後期におけるキリスト教とイスラムの対立、そして十字軍運動の衰退を示す一例として、歴史に刻まれています。

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