スライム (架空の生物)

スライム

スライム（英: slime）は、主にファンタジー作品やSF作品などに登場する、粘液状あるいはゼリー状の体を持つ架空の怪物の一種です。

英語圏では、同様の不定形な怪物を指して「ウーズ（ooze）」や「ブロブ（blob）」といった言葉が使われることもあります。それぞれの英単語は、slimeが軟体動物の這い跡のような「粘液」や「ねばねばしたもの」、oozeが沼地の泥や体液のような「汚泥」や「流出液」、blobが液体や空気などの「不定形な塊」を指す一般的な名詞です。

本来は流動性のある粘液状のものを意味しますが、現代の創作では、半固体のゼリー状（ゲル）の怪物も広くスライムに含まれるようになっています。作品によっては、粘液状とゼリー状の間を行き来したり、粘液の中に固体や半固体の核を持っていたりと、その設定は非常に多様です。多くは有機質の半透明な塊として描かれますが、液体金属や溶岩のような非有機的な体を持つとされることもあります。

怪物のスライムは、貪欲な食欲を持ち、接触した物質を溶かしたり腐食させたりする性質を持つことが多いです。また、物理的な攻撃に対しては耐久性が高く、刃物で切っても切断面がすぐに接着したり、切断した断片が新たな個体として増殖・分裂したりするため、打撃やエネルギー系の攻撃でないと効果的に倒せないという厄介な特性を持つこともしばしば見られます。

「スライム」という概念には厳密な定義がなく、その範囲は曖昧です。生態として不定形の体を自在に変形させて他の生物や物体に擬態するものは「シェイプシフター」と呼ばれることが多く、スライムとは区別される傾向があります。また、映画『ターミネーター2』に登場するT-1000のように、通常は固定した形態を保ちつつ必要に応じて流動化する存在や、水や泥といった自然物そのものが意思を持って動く怪物なども、不定形であっても一般的にはスライムとは見なされないことが多いです。

起源と歴史

歴史的に見ると、実在する生物の伝承の歪曲や、生物の特徴の誇張・合成から生まれた架空の怪物が多い中で、アメーバや変形菌（粘菌）の存在が知られていなかった古代・中世の文献には、不定形な体の怪物の記載は確認されていません。不定形の怪物というアイデアは、ジュール・ヴェルヌやH・G・ウェルズといった作家の影響を受けた19世紀後半の科学的小説の流れの中から生まれたものと考えられていますが、その正確な起源ははっきりしていません。

初期の例としては、1923年に雑誌『ウィアード・テイルズ』に掲載されたアンソニー・M・ラッドの短編『OOZE』が挙げられます。この作品では、実験によって異常に巨大化したアメーバが人間を襲い、物理的な攻撃が効きにくいため、餓死させることで退治されました。微生物が巨大化して怪物となるアイデアは、1906年のフランスの作品『Une invasion de macrobes』にも見られます。また、1907年の雑誌に掲載されたチャールズ・エドモンズ・ウォークの作品『Odyle』にもアメーバ様の怪物が登場したと記録されていますが、詳細な内容は不明です。海洋ホラーで知られるウィリアム・H・ホジスンも、1912年の作品『The Derelict』で、自ら動き人間を捕食・消化するドロドロした菌類の塊を描写しています。

これらの初期作品を経て、『ウィアード・テイルズ』をはじめとする初期のパルプ・マガジンを中心に、ホラーやSFの分野で様々な不定形の怪物が描かれるようになります。アメーバや粘菌に似たものから、宇宙空間を漂う存在、高い知性や超能力を持つもの、人間が変化したミュータントなど、その性質は多様化しました。中でも有名なのが、H・P・ラヴクラフトが1936年の小説『狂気の山脈にて』で創造した「ショゴス」です。ジョセフ・ペイン・ブレナンによる1953年の小説『Slime』（邦題『沼の怪』）は、この種の怪物に「スライム」という名称が使われるようになった初期の例とされることがありますが、作中の怪物は様々な形容で呼ばれており、「スライム」という固有の名称は与えられていませんでした。初期のアメリカン・コミックスにも、不定形の怪物が登場しています。

不定形怪物のアイデアは映画の題材としても人気を博し、特に1958年のパニックホラー映画『The Blob』（邦題『マックイーンの絶対の危機』）がよく知られています。宇宙から飛来した不定形生物が人間を捕食するという内容で、14世紀から記録がある「スタージェリー」（流星と関連付けられるゼリー状物質、正体は粘菌やカエルの卵などとされる）のニュースに触発された可能性が指摘されています。この映画はブレナンの小説『Slime』との類似性が指摘され、実際に訴訟問題も発生しました。

剣と魔法のファンタジー世界での定着

現代のファンタジー作品、特にコンピュータゲームに登場するスライムの直接的な源流は、世界初のテーブルトークRPG（TRPG）とされる『ダンジョンズ&ドラゴンズ』（D&D）シリーズに登場する「ウーズ」類の影響が強いとされています。1974年の初代D&Dから登場したウーズ類は、不定形の単細胞または群体生物で、接触したものを同化したり、酸性の体液で武器や防具を溶解させたり、巨大に成長したりする特徴を持ち、刃物などの物理攻撃が効きにくく、炎やエネルギー攻撃でなければ退治が困難な厄介な存在でした。これらの性質は、その後の多くのTRPGのスライムに引き継がれています。

D&Dの作者の一人であるゲイリー・ガイギャックスは、ウーズ類がダンジョンの生態系における「スカベンジャー（清掃動物）」として意図されており、アメーバや昆虫の幼虫など自然界の生物から着想を得たもので、それ以外の特別なインスピレーション元はないと述べています。
D&Dにおけるスライム（ウーズ）は、対処法を知らないと危険な罠や強敵という位置づけでした。しかし、D&Dを基盤とした1981年のコンピュータRPG『Wizardry』では、スライムは比較的容易に武器で倒せる低レベルの敵として登場します。これに続き、日本でも『Wizardry』の影響を受けたコンピュータRPG『ドルアーガの塔』（1984年）や『ハイドライド』（1984年）が登場し、スライムを序盤の敵として配置しました。さらに、日本のコンピュータRPGを広く普及させた『ドラゴンクエスト』も『Wizardry』を踏襲してスライムを最弱のザコ敵として登場させたことから、日本では「スライムは弱いモンスター」というイメージが広く定着しました。以降、様々な日本産コンピュータRPGにおいて、スライムが序盤の定番敵モンスターとして登場することが一般的となっています。アメリカのコンピュータRPGにも初期からスライムが序盤の敵として登場する例はありますが、日本ほど定番の存在ではなく、TRPGに由来する「厄介な敵」というイメージも根強く残っています。

『Wizardry』のスライムは粘液状のグラフィックでしたが、『ドルアーガの塔』や『ドラゴンクエスト』ではスライムが涙滴型のような定形を持つ存在として描かれ、これにより粘液状でなくてもゼリー状であればスライムに含むという風潮を生み出しました。特に『ドラゴンクエスト』における鳥山明氏による、涙滴型の体に目と口を持つコミカルで愛嬌のあるデザインは、日本におけるスライムのイメージに大きな影響を与えています。ただし、顔のあるデザインやコミカルなデザイン自体が『ドラゴンクエスト』に始まるわけではありません。

2000年代以降の日本のライトノベルやウェブ小説、漫画などでは、スライムでありながら通常は人型を取り、人間と同様の高い知性を持ち、主要な登場人物として描かれる「キャラクター」としてのスライムが数多く見られるようになりました。これらのキャラクターとしてのスライムは、しばしば女性として描かれ、サブカルチャーにおいては「スライム娘」と呼ばれることもあります。

このように、スライムは不定形な怪物のアイデアとして生まれ、様々な作品世界で独自の発展を遂げ、特に日本のRPG文化においては愛すべき最弱モンスターとして広く認知されるに至っています。

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