ショゴス

ショゴス：クトゥルフ神話の不定形生物

ショゴスは、H・P・ラヴクラフトのクトゥルフ神話において、重要な役割を担う架空の生物です。粘液状の不定形生物で、漆黒の玉虫色に輝き、表面には無数の目が浮かんでいます。その姿は、タールでできたアメーバのように形容されることも多く、必要に応じて自在に形態を変化させる高い可塑性と延性を持ちます。大きさも様々で、およそ4メートルほどの個体から、地下鉄車両ほどの巨大な個体まで存在が確認されています。

ショゴスは、太古の地球に飛来した宇宙生物「古のもの」によって創造されました。「古のもの」の奉仕種族として、巨大都市や建造物の建設などに従事していました。当初は知性を持たず、「古のもの」の催眠術のような暗示によって操られていましたが、後に自ら脳を発生させ、知性を獲得します。

この知性の獲得が、ショゴスと「古のもの」との間で凄惨な戦争を引き起こす契機となります。2億5千万年前から始まったこの戦争は、何度も「古のもの」によって鎮圧されながらも、終息を迎えることはありませんでした。これは「古のもの」が、あらゆる労働力をショゴスに依存していたため、全滅させることができなかったことに加え、有効な反撃手段を持たなかったことが大きな要因です。

ショゴスの生命力は非常に強く、陸上への進出も成功しました。この陸上への進出が「古のもの」をさらに追い詰めることになり、最終的には地底深くに封印されることとなります。しかし、「古のもの」の支配から逃れたショゴスの一部は生き残り、後の地球生命の起源に関わった可能性も示唆されています。

ラヴクラフトの作品『狂気の山脈にて』では、ショゴスは「テケリ・リ、テケリ・リ」という独特の鳴き声をあげることが描写されています。これは「古のもの」が発する音をショゴスが模倣したもので、エドガー・アラン・ポーの『ナンタケット島出身のアーサー・ゴードン・ピムの物語』に登場する鳥の鳴き声が元ネタになったという説もあります。

ラヴクラフトの他の作品や、他の作家によるクトゥルフ神話を題材とした作品にも、ショゴスは登場します。『インスマウスの影』では深きものどもがショゴスを使役している可能性が示唆され、『戸口にあらわれたもの』ではインスマウスの魔術師がショゴスを飼い慣らしている描写があります。また、マイクル・シェイの『ファットフェイス』には人間に擬態できるショゴスロードが登場するなど、様々な解釈や派生形が生まれています。

ショゴスは、その不定形性、高い適応能力、そして「古のもの」との関係性から、クトゥルフ神話の根幹を成す存在と言えるでしょう。その圧倒的な存在感と、生命の起源にまで関わる可能性は、読者に深い恐怖と想像力を掻き立てます。

なお、アブドゥル・アルハザードの『ネクロノミコン』では、ショゴスの実在は否定されており、妄想の産物であるとされています。この点も、クトゥルフ神話の複雑さを反映していると言えるでしょう。

興味深いのは、現代のファンタジーにおけるアメーバ型の怪物「スライム」との関連性です。1970年代のテーブルトークRPGで登場した「スライム」は、ジョセフ・ペイン・ブレナンの作品『沼の怪』に登場する怪物が元ネタとされており、ブレナン自身がラヴクラフト作品の大ファンであったことから、ショゴスがそのさらなる原典となっていると考えられています。

ショゴスは、クトゥルフ神話において、単なるモンスターではなく、宇宙的恐怖、生命の起源、文明の興亡といった、様々なテーマを象徴する存在として、今後も多くの作家や読者を魅了し続けることでしょう。

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