スリリントン

『スリリントン』 (Thrillington)

『スリリントン』は、ポール・マッカートニーが「パーシー 'スリルズ' スリリントン」という名義で制作したアルバムであり、オーケストラによるイージーリスニングを特徴としています。このアルバムは、1971年に発表された『ラム』のインストゥルメンタル・カバー・アルバムであり、1977年にイギリスとアメリカでそれぞれリリースされました。アルバムのアートワークは、著名なアート集団ヒプノシスが担当しています。

企画の背景と制作経緯

『ラム』の録音が完了した後、ポール・マッカートニーは1971年6月に『スリリントン』の制作を開始しました。ポール自身は演奏や歌を一切行わず、編曲はリチャード・アンソニー・ヒューソンが手掛けました。このアルバムは、わずか三日のセッションで完成しましたが、その後ポールとリンダがウイングスを結成したため、リリースは見送られました。

数年後の1976年末、ウイングスが活動休止していた折に、ポールはお蔵入りしていたこのプロジェクトを自身の出版会社MPLのために発表することを決定しました。彼は、パーシー・スリリントンという架空のキャラクターを創作し、その存在を世間に知らせるために音楽雑誌に広告を掲載するなどして、好奇心をかき立てることに成功しました。

リリースとその反響

1977年4月、イギリスで『スリリントン』がリリースされましたが、多くのメディアに取り上げられることはありませんでした。『ローリング・ストーン』誌や『バラエティ』誌にレビューは掲載されたものの、ポールがこのアルバムに関与していることが秘密にされていたため、一般のリスナーにはあまり注目されませんでした。実際、発売当初はチャートにも入らず、アルバムはすぐに廃盤となりました。

ミュージシャンや評論家の中には、このペンネームがポール・マッカートニーによる作品であると見抜いた者もいました。『バラエティ』誌においては、パーシー・スリリントンの正体がポールであるかは重要でなく、楽しんでいることが第一だと述べられています。

評価の変化と復刻

アルバムが廃盤となった後、パーシー・スリリントンがポール・マッカートニーであるという認識はファンの間で根強く、コレクターズアイテムとして評価されるようになりました。ポールは1989年にロサンゼルスで行われた記者会見で、ついにパーシー・スリリントンが自分自身であることを認めました。また、1990年にはライナーノートの執筆者が自身であることも明かしています。

このアルバムの背景や制作過程は、1995年に出版されたビートルズのファンジン『グッド・デイ・サンシャイン』や音楽ジャーナリストの著書『The Unknown Paul McCartney』に詳述されています。

『スリリントン』は1995年にCDで復刻され、2012年には『ラム』のデラックス・エディションとして再リリースされました。さらに、2018年にはCDとアナログLPのフォーマットで再発売されるなど、その魅力が再評価されました。

アルバムのメンバーと制作陣

このプロジェクトには、演奏にリチャード・アンソニー・ヒューソンを指揮者として、ヴィック・フリック（ギター）、ハービー・フラワー（ベース）、スティーブ・グレイ（ピアノ）など、多くの才能が集結していました。ポールは自身の名前を隠していましたが、その影響力を感じさせる作品が完成しました。

このアルバムは決して大ヒットを収めることはありませんでしたが、ポール・マッカートニーの音楽への情熱と創造性が詰まった傑作として、今なお多くの音楽ファンに愛されています。

もう一度検索