スリーピング・マーダー

スリーピング・マーダー

『スリーピング・マーダー』（原題：Sleeping Murder）は、1976年に出版されたアガサ・クリスティの推理小説であり、マープルシリーズの最終章を飾る作品です。この物語は、クリスティが1943年に執筆したもので、彼女の死後に出版されることが契約に基づいて決められていました。執筆の背景には、万が一の事態があった際にも家族が困ることのないように、著作権を夫に譲渡する意図がありました。

作品のテーマとスタイル

本作の主要なテーマは「回想の殺人」で、前年の作品『五匹の子豚』と同じく、過去の記憶とその影響が物語の中で重要な役割を果たしています。主人公グエンダは、その家を新居として選びながら、なぜか見覚えのある場所にまつわる恐怖と戸惑いに直面します。この作品は、時には不気味でありながら、同時に愛や家族の絆についても深く考察しています。

登場人物とあらすじ

新婚のグエンダ・リードは、夫のジャイルズよりも先にニュージーランドからイングランドに渡り、ディルマスでヴィクトリア朝風の家「ヒルサイド荘」を見つけます。彼女はその家を魅了され、ただちに購入を決めますが、住み始めてから奇妙なことが起こります。初めての場所でありながら、家のあらゆる点に既視感を覚え、不安に苛まれるのです。さらには、古い戸棚から彼女が想像していた壁紙が見つかり、状況はさらに混乱します。

不安を抱えたグエンダは、ジャイルズのいとこであるレイモンド・ウェスト夫妻からの招待を受けてロンドンを訪れます。その際、観劇中に「若くして死んだ女」という台詞を耳にし、突然の恐怖に襲われ、劇場を飛び出してしまいます。自分が気が狂ったのではないかと心配する彼女は、マープルにすべてを打ち明けることになります。

マープルは、グエンダの家族の過去と家の歴史を繋げる手がかりを探ります。彼女の母はインドで亡くなり、幼少時に伯母のもとで育てられたという背景がありますが、彼女が記憶する家は実は18年前に家族が住んでいた場所だったのです。さらに、マープルは当時の事情を解明するために、グエンダの兄であるケネディ医師や元使用人たちに取材を重ねていきます。

物語は、次第にグエンダの恐怖の根源に迫り、さらには彼女の母の失踪と死亡に関する暗い真実が明らかになっていきます。彼女の家族の秘密と過去が交錯する中で、マープルは重要な証拠を集め、事件の全貌を明らかにすることが求められます。しかし、真犯人は自身の思い込みによって追い込まれることになります。

映像化

『スリーピング・マーダー』は、二度にわたって映像化されています。1987年のテレビドラマや2006年のアダプテーションは、原作をほぼ忠実に再現する一方で、視点やストーリー展開に若干の変更を加えています。特にキャラクターの役割やストーリーの詳細に工夫が加えられ、異なる解釈がされている点が興味深いです。

アガサ・クリスティのデビューから数十年を経て、彼女の作品は依然として多くの人々に愛され、探偵小説の金字塔とされ続けています。『スリーピング・マーダー』はその象徴ともいえる作品です。

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