スレッドセーフ

スレッドセーフとは

スレッドセーフとは、マルチスレッドプログラミングにおいて、複数のスレッドが同時に同じコードを実行しても、プログラムが正しく動作することを保証する概念です。特に、複数のスレッドが共有データに同時にアクセスする場合、データの整合性を保つために注意が必要です。

マルチスレッド環境では、複数のスレッドが同じメモリ領域にアクセスするため、読み取りアクセスのみであれば問題ありませんが、少なくとも一つのスレッドが書き込みアクセスを行うと、データ競合が発生する可能性があります。データ競合が発生すると、プログラムが未定義の動作を引き起こしたり、競合状態によって予期しない結果が生じたりする可能性があります。最悪の場合、セキュリティ上の脆弱性につながることもあります。

スレッドの実行順序やデータアクセス順序は、オペレーティングシステムのスケジューリングや実行時のリソース状況によって変動するため、予測が困難です。そのため、静的なコード解析だけでは、スレッド関連のエラーを完全に見つけることは難しいです。マルチスレッド環境では、起こりうるすべての状況を考慮し、排他制御などの対策を講じる必要があります。

スレッドセーフの重要性

スレッドセーフは、マルチスレッドプログラミングにおいて非常に重要な要素です。かつてはオペレーティングシステム開発者のみが考慮すべき問題でしたが、1990年代後半から一般的な問題となりました。マルチスレッドプログラムでは、複数のスレッドが同じアドレス空間で同時に実行され、メモリ領域へのアクセス制限は特にありません。

スレッドセーフとは、プログラムが予期しない動作をしないように保証する、コード実行の安全性の指標です。しかし、スレッドセーフなコードを作成するにはオーバーヘッドが発生するため、すべての操作をスレッドセーフにするのは現実的ではありません。不必要な排他制御は、プログラムのパフォーマンスを低下させる可能性があります。したがって、実際に複数のスレッドが同時に読み書きアクセスを行う可能性のあるコード領域（クリティカルセクション）のみをスレッドセーフ化する必要があります。

スレッドセーフの判断基準

コードがスレッドセーフかどうかを判断することは容易ではありませんが、以下の点に注意することで問題を発見しやすくなります。

グローバル変数や静的変数など、静的記憶域期間を持つ変数へのアクセス
ヒープ領域への動的なメモリ確保・解放の有無
ポインタや参照を介した間接アクセス
副作用の有無（例えば、C言語におけるvolatile変数へのアクセス）

スタック上の変数のみを使用し、引数にのみ依存し、同様な特性のサブルーチンのみを呼び出すサブルーチンは、リエントラントであり、スレッドセーフです。このようなサブルーチンは「純粋関数」とも呼ばれます。

静的コード解析ツールの中には、プログラムの並行性に関するバグを検出できるものもあり、スレッドセーフでないコードに対して警告を発します。

スレッドセーフの実現手法

スレッドセーフを実現するための主な手法は以下の通りです。

リエントラント: 広域変数などを使用せずに、状態を保持しない関数を作成します。ただし、状態の保持ができないため、利用できる範囲が限られます。
相互排他: 共有データへのアクセスを逐次化することで、同時に複数のスレッドがアクセスできないようにします。しかし、複数の共有データにアクセスする際にはデッドロックのリスクがあるため注意が必要です。
スレッドローカルデータ: 各スレッドごとに独立したデータ領域を用意し、共有変数をスレッドごとに持つことで、競合を回避します。
アトミック操作: 共有データへのアクセスを不可分な操作として実行することで、他のスレッドからの同時アクセスを防ぎます。アトミック操作は、多くの排他制御機構の基盤となっています。

これらの手法を組み合わせ、さらに以下のような手法を用いることもあります。

* 共有データのスレッド固有のコピーを作成し、そのコピーを使って更新を行い、最後に共有データをアトミックに更新します。これにより、コードの大部分を並列実行しつつ、必要な部分のみをシリアライズできます。

ファイルのようなシステム共有リソースに関しては、同じプロセス内の他のスレッドだけでなく、異なるプロセス内のスレッドからもアクセスされる可能性があるため、プロセス間での排他制御が必要になる場合があります。

まとめ

スレッドセーフは、マルチスレッドプログラミングにおいて不可欠な概念です。適切にスレッドセーフなコードを記述することで、複数のスレッドが同時に実行されても、プログラムは安定して動作します。スレッドセーフなコードを作成するためには、共有データへのアクセスを注意深く管理し、競合状態を避けるための排他制御などの手法を適切に利用する必要があります。

もう一度検索