スーサイド

アメリカ合衆国のロック・バンド、スーサイド（Suicide）は、1970年にニューヨークで産声を上げました。ボーカルのアラン・ベガと、シンセサイザー及びドラムマシンを担当するマーティン・レヴという、異色の二人組で構成されたこのユニットは、当時のロックシーンにおいて、極めて実験的かつ革新的なサウンドを提示しました。彼らは一般的なバンド編成から逸脱し、ミニマルな電子音と反復的なリズム、そしてアラン・ベガの挑発的で時に叫び声にも似たボーカルワークを組み合わせることで、唯一無二の世界観を構築しました。

結成当初から、スーサイドはニューヨークのアンダーグラウンドクラブシーンを中心に活動を展開。彼らのライブパフォーマンスは非常に強烈で、観客の賛否両論を巻き起こすことも少なくありませんでした。しかし、そのラジカルなアプローチは、やがて多くのアーティストに影響を与えることとなります。

バンドの歴史において特に重要な作品が、1977年に発表されたセルフタイトルの1stアルバム『スーサイド』です。このアルバムは、発表当時は理解されにくい部分もありましたが、時を経るにつれてその音楽的な価値が再認識され、ロック史における金字塔の一つと見なされるようになりました。「ローリング・ストーン誌が選ぶオールタイム・ベストアルバム500」にも選出されるなど、後世への影響力は計り知れません。

彼らの音楽性は、パンク、ポストパンク、インダストリアル、エレクトロニック・ミュージックといった多様なジャンルのアーティストに影響を与えました。シンセサイザーを単なる装飾としてではなく、楽曲の基盤として用いる手法や、冷たく無機質なリズムマシンを感情的なボーカルと対比させるスタイルは、その後の音楽の可能性を大きく広げたと言えるでしょう。

スーサイドは、その活動期間中に複数の作品をリリースしています。スタジオ・アルバムとしては、『スーサイド』(1977年)に加え、『Suicide: Alan Vega and Martin Rev』(1980年)、『A Way of Life』(1988年)、『Why Be Blue』(1992年)、そして『American Supreme』(2002年)を発表しています。

彼らのライブは伝説となっており、その証として多数のライブ・アルバムも残されています。初期のライブやデモ音源を含む『ハーフ・アライヴ』(1981年)、1981年のライブ録音を収めた『ゴースト・ライダース』(1986年)、1970年代後半の貴重な録音である『Zero Hour』(1997年)などがあります。特に、1977年から1978年にかけてのライブを包括的に収めたボックスセット『Live 1977-1978』(2008年)は、彼らのライブの凄まじさを伝える重要な記録となっています。また、ライブ音源を収録したEP『23 Minutes Over Brussels』(1978年)なども存在します。

シングルとしては、「Cheree」や「Dream Baby Dream」といった代表曲がリリースされています。

長年にわたり、独自のペースで活動を続けてきたスーサイドですが、2016年にボーカルのアラン・ベガが惜しまれながらこの世を去りました。これにより、バンドとしての活動は終了となりました。

スーサイドは、その短い活動期間やミニマルな編成にも関わらず、音楽史において決して無視できない、重要な足跡を残しました。彼らの実験精神と妥協なきサウンドは、今もなお多くの音楽ファンやクリエイターたちに影響を与え続けています。

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