スーパーカム

SuperCam (スーパーカム)

SuperCamは、アメリカ航空宇宙局（NASA）が運用する火星探査機「パーサヴィアンス」に搭載された、極めて重要な科学観測機器の一つです。この機器は、火星の地表に存在する岩石や土壌を、探査機が直接触れることなく、離れた場所から詳細に分析するために設計されました。その最大の目的は、火星の過去に微生物が存在した可能性を示す「バイオシグネチャー」、特に生命活動の痕跡となりうる有機化合物を探索することにあります。

開発背景と構成

SuperCamは、パーサヴィアンスの先輩にあたるキュリオシティ探査機に搭載され、大きな成果を上げたChemCam（ケムカム）という分析機器を基に、大幅な改良を加えて開発されました。ChemCamが使用していたレーザーや検出器がアップグレードされており、より高精度で多角的な分析が可能になっています。

SuperCamの開発には国際的な協力体制が敷かれました。フランスのトゥールーズ大学天体物理学・惑星学研究所（IRAP）、フランス国立宇宙研究センター（CNES）、アメリカのロスアラモス国立研究所、ハワイ大学、そしてスペインのマラガ大学といった、各国の研究機関が共同で設計・製造にあたりました。主任研究者は、ロスアラモス国立研究所のロジャー・ウィンス氏が務めています。

機器構成と分析能力

SuperCamは、その名の通り「スーパー」なカメラ機能に加え、複数の強力な分析機能を統合した複合機器です。主な構成要素は以下の通りです。

カメラ: 分析対象の画像を撮影し、詳細な地形や特徴を確認します。
レーザー: ターゲットに強力なレーザーパルスを照射し、表面を蒸発させてプラズマを発生させます。このプラズマの発光を分析することで、対象物の化学組成を特定するLIBS（Laser-Induced Breakdown Spectroscopy）分析を行います。
* 分光計: 合計4種類の補完的な分光計を搭載しています。これらは、レーザーによって発生したプラズマの発光や、太陽光などが対象物から反射・散乱される光を分析することで、対象物の鉱物学的な特徴や分子構造、さらには有機物の有無に関する情報を提供します。

特に、搭載されている分光計には、ラマン分光法、時間分解蛍光（TRF）分光法、可視および赤外線（VISIR）反射分光法などがあり、それぞれが異なる種類の情報をもたらします。これらの分析手法を組み合わせることで、岩石や土壌に含まれる元素の種類や量だけでなく、どのような鉱物が含まれているか、どのような有機物が存在するかといった、より詳細な化学的・鉱物学的情報を得ることができます。これらの機器は高い感度を備えており、微量に含まれる化学成分も検出可能です。

ミッションにおける役割

SuperCamの多角的な分析能力は、パーサヴィアンスミッションの科学目標達成に不可欠です。特に、過去の生命の痕跡が保存されている可能性の高い岩石や土壌の層を探し出す上で、SuperCamによるリモートでの迅速な初期分析が役立ちます。これにより、ローバーが近づいてさらに詳しい調査を行ったり、将来地球に持ち帰るためのサンプルとして採取したりする価値のあるターゲットを効率的に特定できます。

タイムライン

SuperCamは、厳しい宇宙環境に耐えるための組み立てとテストを経て、2018年4月には最終段階に入りました。飛行モデルは2019年6月にパーサヴィアンスローバー本体に組み付けられました。そして、ローバーミッションは2020年7月30日に成功裏に打ち上げられ、火星へと旅立ちました。

SuperCamは、火星の岩石や土壌の秘密を解き明かし、地球外生命探査という人類の長年の問いに答えをもたらすため、現在も火星表面で観測を続けています。

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