スーパー・ドラコ

スーパー・ドラコ（SuperDraco）は、革新的な宇宙開発企業として知られるスペースX社が独自に設計、開発、製造を手掛ける液体燃料ロケットエンジンです。同社が開発したエンジンファミリー「ドラコ」系列の中で、特に高推力を発揮するモデルとして位置づけられています。

エンジンの特性

スーパー・ドラコエンジンは、自己着火性推進剤であるハイパーゴリック推進剤を使用しています。具体的には、燃料としてモノメチルヒドラジン（MMH）、酸化剤として四酸化二窒素（NTO）の組み合わせを採用しています。これらの推進剤の大きな利点は、極低温にする必要がなく、常温で長期にわたり保存が容易であることです。これにより、打ち上げ前から長期間スタンバイ状態を維持でき、また軌道上で数ヶ月経過した後でも、必要に応じて瞬時に確実に再点火することが可能となります。この即応性と再点火能力は、特に緊急時の対応や、宇宙船の精密な軌道制御、姿勢制御、そして重要な着陸フェーズにおいて不可欠な機能となります。

主な用途：ドラゴン2宇宙船

スーパー・ドラコエンジンは、スペースX社の主力有人宇宙船であるクルー・ドラゴン（ドラゴン2有人版）およびカーゴ・ドラゴン（ドラゴン2無人版）の主要な推進システムとして搭載されています。ドラゴン2には合計8基のスーパー・ドラコエンジンが搭載されており、これらは船体の側面に配置されています。この多基搭載と冗長性のある構成は、システムの信頼性を高める上で非常に重要です。

スーパー・ドラコがドラゴン2で担う役割は多岐にわたります。

1. 打ち上げ脱出システム（Launch Escape System - LES）: 打ち上げ段階で万一ロケットに異常が発生した場合、瞬時に点火して宇宙船をロケットから分離し、乗員を安全な場所へ退避させるための緊急脱出システムとして機能します。強力な推力により、短時間でロケットから離脱することができます。
2. 動力着陸（Propulsive Landing）: 地球への帰還時、または将来的な他天体への着陸において、大気圏突入後の終末段階で逆噴射を行い、速度を制御しながら軟着陸を実現するための推進力となります。これにより、パラシュートだけに頼らない、より高精度で柔軟な着陸が可能となります。

特に、当初の計画ではドラゴン2はスーパー・ドラコによる動力着陸を主要な着陸方法とする予定でしたが、実運用ではパラシュートと組み合わせた海洋着水方式が採用されています。しかし、エンジンの能力自体は動力着陸を可能とするものであり、将来的な月や火星への着陸などに応用される可能性も秘めています。

その他の開発と実験

スーパー・ドラコの動力着陸能力を検証するため、スペースXはドラゴンフライと呼ばれる試験機を開発し、テキサス州マグガーにおけるホップ試験を実施しました。この試験では、スーパー・ドラコエンジンを用いた垂直離着陸の技術実証が行われ、エンジンの能力が確認されました。また、かつてスペースXがNASAと共同で計画していた無人火星探査ミッション「レッド・ドラゴン」では、スーパー・ドラコを火星表面への精密な動力着陸システムとして利用する構想がありました。この計画自体は中止となりましたが、スーパー・ドラコの惑星探査における潜在能力を示すものでした。

性能

スーパー・ドラコエンジンの最大推力は、73,000ニュートン（約16,400 lbf）に達します。これは、ドラコ系列の基本モデルであるドラコエンジン（約400 N）と比較して格段に強力であり、その名の通り「スーパー」な性能を持っています。ただし、ドラゴンフライでの初期試験など、用途によっては推力を抑えて使用された記録もあります。

スーパー・ドラコは、その高い推力、信頼性、そしてハイパーゴリック推進剤による柔軟な運用性から、スペースXの有人宇宙飛行計画において極めて重要な役割を担う、高性能なロケットエンジンと言えます。
エンジンです。

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