セイヨウノコギリソウ

セイヨウノコギリソウ（西洋鋸草）

セイヨウノコギリソウ（学名：Achillea millefolium）は、キク科ノコギリソウ属に分類される多年草の一種です。ヨーロッパを原産とし、ヤロウ（yarrow）という英名でも知られています。

分布と生育地

ヨーロッパ原産で、空き地や道端、野原などで自生している姿が見られます。日本へは明治時代に小石川植物園で栽培されたのが最初です。戦前には北海道を除く地域で栽培されていましたが、その後、幹線道路沿いや深山でも野生化しているのが確認されています。日本で野生化しているものは、栽培されていたものとは別に、新たに帰化したものと考えられています。

特徴

多年草であり、根茎を持っています。草丈は20cmから100cm程度まで成長し、茎は直立して木質のように硬いのが特徴です。茎には縮れた軟毛が生えています。

葉は羽状複葉で、2〜3回羽状に細かく裂けており、ノコギリの歯のような形をしています。この特徴的な葉の形から、ミルフォイル（millfoil）やサウザンド・ウィード（Thousand weed）という別名もあります。根生葉には柄があり、茎につく葉には柄がありません。葉はやわらかく、両面に軟毛が生えています。

花期は7月から9月頃で、灰色がかった白色または薄いピンク色の小さな花を密集させて咲かせます。頭花は傘状に集まってつき、それぞれ5個前後の舌状花と多数の筒状花から構成されています。舌状花は雌性で、長さは2mm程度、冠毛はありません。総苞は半球形で、総苞片の縁は膜状で、背面には軟毛があります。花床には鱗片があり、果実期には花床が伸びて円錐状になります。

株分けで容易に栽培でき、土質も選ばないため、庭に植えると繁殖しすぎて困るほどです。ヤロウという英名は、アングロ・サクソン語の"gearwe"やオランダ語の"yerw"が訛ったものとされています。アメリカ、ニュージーランド、オーストラリアなどにも帰化しており、繁殖力が強く、本州と北海道の一部で野生化しています。生命力が非常に強く、堆肥用の生ゴミに一枚の葉を入れるだけで急速にゴミを分解すると言われています。また、根から分泌される液体には、そばに生えている植物の病気を治したり、害虫から守ったりする力があり、コンパニオンプランツとしても利用されています。

園芸品種としては、紅色や深紅色の花を咲かせるものがあり、「アカバナセイヨウノコギリソウ」という名前で流通しています。その他、草丈が1m程度にまで成長し、黄色の花をつけるイエローヤロウ（キバナノコギリソウ）や、草丈20cm程度で黄色の花をつけるウーリーヤロウ（ヒメノコギリソウ）などが存在します。

日本の在来種であるノコギリソウ（Achillea alpina subsp. alpina var. longiligulata）は、葉が厚くて硬く、幅が狭く、葉の切れ込みが浅い点や、花床が果実期にもあまり伸びない点で、セイヨウノコギリソウとは異なります。

歴史

セイヨウノコギリソウは、先史時代から薬草として利用されてきました。ネアンデルタール人の墓地であるシャニダール洞窟からは、セイヨウノコギリソウの花粉が大量に発見されています。

「兵士の傷薬」という古い呼び名があり、属名であるAchillea（アキレア）は、古代ギリシャの英雄アキレウスに由来するとされています。アキレウスがミュシア王テレフォスの傷を治す際にセイヨウノコギリソウを利用したという伝説があります。

薬草学の父と呼ばれるペダニウス・ディオスコリデスも、セイヨウノコギリソウの薬効について述べています。

イギリスでは、サクソン人が5世紀頃から薬草として栽培しており、家庭で育てたものを乾燥させて、火傷や切り傷に効く軟膏を作っていました。古くはアイルランドのドルイドが、この草の茎を使って天候を占っていました。中世には、悪魔を遠ざける強い魔力があると信じられ、結婚式の花束に用いられました。イギリスでは恋占いにも使われ、アメリカに渡った開拓者たちも栽培し、外傷薬として使用しました。19世紀には、乾燥させた葉をタバコの代用として用いていたとされています。日本には1887年（明治20年）に渡来しました。

利用

薬効

セイヨウノコギリソウは、内用・外用の両方に利用されます。

内用としては、茎の先端にある花部を用いるのが一般的です。花や葉には強壮効果、食欲増進、発汗、解熱作用があるとされ、ハーブティーとして飲まれます。

外用としては、葉の汁を用いるほか、煎剤やワイン剤（ワインで煮出したもの）が用いられます。冷やして傷口の消毒にも使用されます。また、傷を治すハーブとして、葉をそのまま傷口に当てたり、粉末にして軟膏にしたものが用いられます。

生の葉を噛むと歯痛を鎮めるとも言われています。リウマチの治療にも用いられます。

料理

若葉は刻んでサラダの材料として利用できます。イギリスでは、茹でてからバター炒めで食べられていました。スウェーデンでは、ビール醸造の際にフィールド・ホップという名前で用いられていました。

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